賃上げに失敗しないためのポイント3選、見るべきは「率」ではなく「金額」

「同業の社長は5%上げたらしい。うちは3%しか上げられていない……」

中小企業の経営者の方から、こんな悩みを聞くことがあります。報道でも「中小企業の賃上げ率が5%を超えた」「賞与の伸びが大手を上回った」といったニュースが目立ち、焦りを感じている方も多いのではないでしょうか。

しかし、中小企業の賃上げにおいて「何%上げたか」は、ほとんど重要ではありません。率を追いかけて賃上げを続けても、社員の満足は一時的なもので終わり、やがて経営を圧迫してしまうからです。

大切なのは、賃上げと同時に「会社の将来」と「給与が決まるルール」を社員に示すことです。

この記事では、中小企業が賃上げで失敗しないための考え方と、賃上げと同時に打ち出すべき3つのことを順を追って整理します。

動画でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

見るべきは「率」ではなく「金額」

メディアで取り上げられるのは、ほとんどが「賃上げ率」です。しかし、中小企業が賃上げを考えるときに注目すべきは、率ではなく「社員がいくらもらっているか」という金額のほうです。

理由はシンプルで、大企業と中小企業では、そもそもの賃金水準に大きな差があるからです。大企業を100とすると、中小企業はおおむね75〜80程度。大企業が5〜の7%昇給したのに対し、中小企業が10%昇給したとします。しかし、賃上げ率だけ大企業を上回ったとしても、金額の差は到底埋まりません。

ですから、賃上げ額や昇給額は「何%か」ではなく「いくらか」で検討してください。賞与については、年収ベースで考えるのがおすすめです。

  • ポイント
    賃上げ率(昇給率)ではなく、
    「賃金・給与をいくらもらっているか」をベースに昇給額を考える

賃上げ「だけ」では、中小企業は続かない

中小企業と大企業の間には、賃金だけでなく生産性にも大きな格差があります。中小企業白書によると、社員1人当たりの稼ぎ高は、ざっくり言うと中小企業が大企業の3分の1程度しかありません。

この状態で大企業の賃金に追いつこうと10%、20%と賃上げをしても、得られるのは一時的な社員の満足だけです。

さらに怖いのは、賃上げを毎年続けた場合です。大企業は毎年5%上げても十分に利益が残る余力があります。一方、中小企業が同じように毎年5%上げ続ければ、2年目、3年目には赤字に陥ってしまいかねません。

だからこそ、中小企業は賃上げの率や金額にこだわるのではなく、賃上げと「同時に」やるべきことがあります。それが、社員の納得度を高め、組織を成長させるポイントになります。

賃上げと同時に打ち出すべき3つのこと

賃上げと同時に、次の3つを社員全員に向けて発信してください。これらは中小企業の組織と社員の納得度を得る大事なポイントになります。

  • ①10年後までのビジョンと事業計画を打ち出すことを伝える
  • ②評価制度をどう確立していくかを伝える
  • ③賃金制度をどう整えていくかを伝える

ひとつずつ解説します。

①10年後までのビジョンと事業計画を示す

まずは、10年後までに会社をどう成長させていくのかを、年度ごとの事業計画として具体的に描きます。事業計画では、今の状況を踏まえて、会社が10年後どう発展していくかを描くことが大事です。

「今はこういう状況だけれど、10年後には生産性を2倍、3倍にする。売上も10倍、粗利益も10倍以上を目指す」。そんなふうに、社員全員がワクワクするような未来を掲げるのです。

たとえば、「社員全員が周りに自慢したくなる会社を必ずつくる」といった目標を掲げます。社員に伝える際は、必ず社長自らがメッセージとして発信してください。今年の賃上げ額だけでなく、「この会社にいれば将来こうなれる」という期待を示すことが大切です。

②評価制度の確立とそのスケジュールを立てる

中小企業で、きちんとした評価制度が運用できている会社は多くありません。この記事を読んでいる皆さんの会社も、もしかすると同じ状況かもしれません。

だからこそ、賃上げと同時に「これからは評価制度を確立し、その評価結果に基づいて、ルール通りに昇給や賞与を決めていく」と打ち出してください。

「なぜこの金額なのか」が見えない賃上げは、社員の納得につながりません。評価と処遇がつながる仕組みをつくると宣言することで、賃上げの意味が社員に伝わるようになります。

③年収をシミュレーションできる賃金制度をつくる

「どんな評価を取れば、昇給額や賞与額がいくらになるのか」。これが賃金テーブルとして明示され、社員全員がわかる状態になっている会社は、圧倒的に少ないのではないでしょうか。

目指したいのは、会社の業績と自分の評価結果を照らし合わせれば、次回の賞与がおおよそいくらになるのかがわかる仕組みです。

さらに言えば、社員一人ひとりが「順調に評価を上げていけば、5年後、10年後の年収はこれくらいになる」とシミュレーションできる状態が理想です。自分が成長すれば年収も上がる。その道筋が見えれば、社員は具体的な将来ビジョンやキャリア目標を持てるようになります。

ワンポイント:制度づくりの「スケジュール」もあわせて公開する

とはいえ、評価制度と賃金制度は、3か月や半年で作って公開できるものではありません。

そこでおすすめしたいのが、賃上げや賞与の支給と同時に、制度づくりのスケジュールを公開することです。「いつまでに賃金制度を明確にする」「いつまでに、全社員の育成体系や将来のキャリアプラン、年収が描ける状態にする」。こうした予定を示すだけでも、社員の受け止め方は大きく変わります。

まとめ:賃上げ率より大切なこと

中小企業が賃上げで失敗しないためには、賃上げと同時に次の3つを社員に伝えることが重要です。

  • 10年後までのビジョンと事業計画を賃上げと同時に明確に示す
  • 評価制度を確立していくこととを伝え、そのスケジュールを立てる
  • 個々人が年収をシミュレーションできるレベルの賃金制度を確立し、そのスケジュールを明確にする

この3つを打ち出せば、たとえ今年の賃上げが2%、3%で、大手や地域の同業より低かったとしても、社員に期待感を持ってもらうことは十分にできます。働きがいややりがいに向けて、前向きに頑張ってもらえる会社になれるはずです。

賃上げ率の数字に振り回されるよりも、この3つのほうがはるかに重要です。この機会に、自社の賃上げの伝え方を見直してみてはいかがでしょうか。

役職手当をはじめ、社員を育てる賃金制度の仕組みについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。

この記事を監修した人

代表取締役山元 浩二

経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である『【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版)を出版。累計20万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。

個人ブログ:https://jinjiseido.co.jp/blog/

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