中小企業の給与体系の例、所定内給与の構成と中途採用者向けのモデル賃金を解説
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「基本給」や「本給」、「資格手当」など給与体系の中の項目について、あなたの会社では、どのくらいの社員がその内容を理解しているといえるでしょうか。分かりづらい給与体系となっている会社ほど、給与に対する社員の不満が生まれがちです。中小企業の給与体系の例を紹介したうえで、給与体系の基本について解説します。
給与体系とは
給与体系とは、毎月の賃金や手当の支給基準を示すものです。どのように給与が決められているのかが、給与体系を見ればわかるようになっています。
賃金と一言で言っても、それは複数の項目に分かれています。「基本給」「本給」などの基本的な給与や、「住宅手当」「家族手当」といった各社員の家族構成や環境に応じて支給される手当などの各賃金項目が、どのように算定されるのかを示したものが、給与体系です。
給与体系の種類
給与体系は、所定内給与と所定外給与とに分かれています。所定内給与とは、所定労働時間内の働きに対して、きまって支給される給与(固定給)のことです。一方で、所定外給与とは、残業代や休日出勤など、所定労働時間外の働きに対して付与される手当を指します。
所定内給与と所定外給与については、以下の記事に詳しく解説しています。参考にしてください。
一般的な給与体系
一般的な給与体系は、以下の通りです。
【所定内給与】
■基本給
所定労働時間内の仕事に対して支払われる、毎月固定の賃金です。とくに日本では在籍の期間に応じて昇給していく「勤続給」や、仕事のスキルに応じた「職能給」が含まれるケースが多く、長くその会社で仕事をすればするほど「勤続給」や「職能給」が増え、基本給が上がっていきます。
■職務給
社員の年齢や在籍年数に関係なく、実際に従事する仕事の内容に応じて決められる給与です。
■職能給
社員の年齢や勤続年数、職務遂行能力を評価し、その評価のもとに決められる給与です。
■役職手当
役職に応じて、一律の金額を決めて支給されるのが、役職手当です。
■通勤手当
通勤のための電車賃等を、実費で支給します。支給額に上限のある会社も多くあります。
■家族手当
扶養家族がいる社員に、一定額を付与するものです。
■住宅手当
家賃等の補助です。
【所定外給与】
■残業手当
所定労働時間、あるいは法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働いたら、残業手当が出ます。基本的に「1時間当たりの賃金×残業時間×1.25以上」として計算されます(大企業では、残業時間が1ヶ月60時間を超過したら割増率は1.5倍となる)。
■深夜勤務手当
22時から翌朝5時までの間に勤務したら、「1時間当たりの賃金×深夜勤務時間×1.25以上」が加算されます。深夜勤務が残業でもあった場合は、残業分の1.25倍も加算され、1.5倍の割増率になります。
■休日勤務手当
休日出勤したら、「1時間当たりの賃金×休日勤務時間×1.35以上」が加算されます。休日勤務の後、振替休日を設定して消化する会社もあります。
【給与以外の賃金】
■賞与
ボーナスのことです。支給日や回数、金額は、会社ごとに違います。会社の業績などに応じて「給与の●ヶ月分」としている企業が一般的です。
関連記事:
厚生労働省がまとめた「一般的な賃金制度」では、以下のような給与体系になっています。
中途採用者の給与はどうやって決める?
経営者の頭を悩ませることの一つが「中途採用者の給与をどうやって決めるべきか?」です。これについては、職能給から職務給に移行し、モデル賃金を作っておくとよいでしょう。
昨今、「同じ仕事に携わっているのであれば、同じ賃金を支払うべきである」という考え方が広まっています。同じ仕事内容であれば、どの会社でも同じ賃金水準であるべきという考え方です。これは、中途採用者の給与を決定する際のベースとなります。
この考え方を実現するのが、「職務給」です。職務給は、同じ職務についている限り、年齢や在籍年数、職務遂行スキルに関係なく、同じ金額を支給します。担当する職務(仕事)を基準にすることで、中途採用者の給与を決めやすくなるでしょう。
これまでは、人の仕事能力が評価のベースとなる「職能給」が一般的でしたが、働き方改革の一つである「同一労働同一賃金制度」の適用に伴い、職務(仕事内容)ベースで評価する「職務給」の導入が進んでいます。
職務給については以下の記事で詳しく解説しています。
基本給体系の組み合わせ例
基本給の体系をつくるには、以下の4つの組み合わせがあります。
- 1.職務給のみ
- 2.職務給+職能給
- 3.職務給+年功給
- 4.職務給+職能給+年功給
1を選べば、仕事が変わらない限り、賃金は上昇しません。つまり、同じ部署で同じ仕事をしていれば、ずっと同じ給与ということになります。これではモチベーションが上がらないどころか、離職者を増やす引き金になりかねません。
2の場合には、職務給をベースに、能力評価を反映させることが可能になります。仕事のスキルが上がれば上がるほど給与がアップしていくため、社員は向上心を持って仕事に取り組むことができるでしょう。
3や4は、年齢給や勤続給と呼ばれる年功給をプラスする方法です。しかし、とくに中途採用者の場合はそもそも年功給が低いため、あまり魅力ある給与制度にはなりません。
以上を踏まえると、とくに中途採用者のやる気を引き出すためには、2番のように職務給だけではなく職能給をプラスする制度を整えたほうが良いと分かります。
中途採用者向けのモデル賃金を作っておく
職務給を定めたうえでモデル賃金を作っておくと、中途採用者の給与をよりスムーズに決定することができます。
例えば、「35歳、営業、扶養家族2人」「28歳、研究職、扶養家族なし」といった想定モデルを作り、給与体系に従って想定される給与額をあらかじめ設定しておくのです。
通常、「モデル賃金」は新卒者がどのような給与の経緯をたどるのかを表すものとして使用されますが、中途採用者についてもこのモデル賃金を用意し、会社サイトの採用ページなどに公表しておくと、採用される側、採用する側ともに給与額のイメージがつきやすくなります。
具体的なモデル賃金の作り方については、以下を参考にしてください。
中小企業におすすめの給与体系
中小企業におすすめなのが、客観的な評価基準をもとに給与金額を決める、シンプルな給与体系です。とくに所定内給与(固定給)については、次のような構成はいかがでしょうか。
■基本給(本給+仕事給)
基本給は、本給と仕事給の2つに分けます。本給は、勤続給的な性格を持った、積み上げ型の支給項目です。年1回、定期的に昇給が行われます。一方、仕事給は、評価結果に基づき、成果や貢献度を直接反映させる支給項目です。評価するたび、あるいは一定期間の評価結果に応じて金額が変動するため、成果報酬の面を持ち合わせています。
■役職手当
役職ごとにあらかじめ金額を決めて支給する手当です。昇進、降職に応じて支給額が上下します。
一般的には、こういった項目のほかに「年齢給」「勤続給」「職務給」「職能給」といった項目があるかと思われます。しかし、本人の仕事の成果に基づくことのない項目や、評価基準があやふやになりがちな項目があると、社員が給与に不満を持つもとになってしまいます。
社員に納得してもらえる給与体系の作り方について、詳細は、次の記事を参考にしてください。
中小企業の給与体系の例(本給と仕事給の比率例)
中小企業の給与体系として、本給と仕事給の比率は、どのような人事戦略を取るかで決めるのがおすすめです。例を出して説明しましょう。
本給:仕事給 7:3
基本的には、毎年上がり続ける本給のウェイトが大きくなっています。安定的な給与体系のイメージで、継続して働いてもらえることが期待できます。
本給:仕事給 5:5
安定的な本給と、上下する仕事給が同じ比率です。成果がそれなりに反映されるイメージなので、勤続年数が浅い人のモチベーションをアップさせることができるでしょう。
本給:仕事給 3:7
評価結果で上下する仕事給のウェイトが大きくなります。成果主義の姿勢を強くアピールできる給与体系で、より野心ある人が集まりやすい会社となるでしょう。
間違った給与の決め方をしていませんか?
中小企業には、間違った給与の決め方をしている例が多々見られます。以下の3パターンに、思い当たる節はありませんか。
えんぴつなめなめ型
社長が独断で社員一人ひとりの昇給額や賞与支給額を決めるパターンです。金額の根拠が乏しいので、社員の不満のもとになります。
他社(者)依存型
中途採用者について、前職の支給額をもとに、給与を決めるパターンです。同じ仕事をしている者同士でも給与に差ができてしまい、不満につながります。
事なかれ主義型
昇給も賞与も全て、前例に基づいて決めるパターンです。社の業績に関わらず、過去の支給額を基準にされるため、社員は自分が会社にどう貢献できたのかが分かりづらくなります。「自分の頑張りを見て評価してくれてはいないのだ」と、モチベーションの維持が難しくなります。
以上の3パターンに心当たりがある方は、以下の記事でその危険性をチェックしてください。給与体系を改めるための方法についても解説しています。
中小企業の給与体系について詳しくは、著書『小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方』をご参照ください。
小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方 「やる気のある社員」が辞めない給与・賞与の決め方・変え方
おわりに
中小企業の給与体系は、なるべくシンプルに、社員が納得できる項目だけで作るのがベストです。あいまいな基準で支給されている給与項目がないか、一度調べてみましょう。
社員に評価基準が説明できない項目は、徐々に消化してしまうのが一番です。「同一労働同一賃金」の原則を厳守しなければならない今、客観的で正当な評価を基準にして、社員全員が納得できる給与体系を整えていきましょう。
この記事を監修した人
代表取締役山元 浩二
経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である『【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版)を出版。累計14万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。
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