給与改定(賃金改定)に取り組む前に確認しておきたい5つのこと

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企業にとって、給与改定(はどのような意味を持つかご存じですか。給与の見直しは社員のモチベーションを左右するだけでなく、会社の未来にまっすぐ結びつく取り組みです。給与改定の定義を正しく知り、間違った給与の決め方をしていないか、給与制度の役割を正しく理解しているかを確認してから取りかかりましょう。給与改定におすすめの給与テーブルについても解説します。

給与改定(賃金改定)の定義

給与改定とは、全て、あるいは一部の常用労働者を対象とした、「定期昇給」や「ベースアップ」「諸手当」の改定等を指します。賃金は、改定によりアップすることもあれば、「ベースダウン」「賃金カット」などによりダウンすることもあります。

定期昇給とは、制度により一定時期に毎年増額することを指し、ベースアップとは、給与改定により賃金の水準を引き上げることを指します。諸手当とは「能率手当」「生産手当」「技能手当」「家族手当」「通勤手当」などのことを指し、これらを引き上げることで、一部の労働者にとっては給与アップにつながります。

一方で、ベースダウンとは給与改定により賃金の水準を引き下げることを指し、また賃金カットは給与改定を行わずに一定期間の賃金を減額することを指します。賃金カットの場合は、一定期間が過ぎた後、業績が上向くなどすれば、経営者の判断のもと賃金額がもとの水準に戻る可能性があります。

参考:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/12/dl/yougo.pdf

賃金制度改定に係る方針の設定

シンクタンクの浜銀総合研究所が厚生労働省の委託を受けてまとめた「中小企業のモデル賃金」によると、賃金制度を改定する方針を設定する際には、「制度を改定した結果、どんな処遇を実現したいか」を確認しておくのが大事とされています。賃金改定のニーズを確認することは、賃金制度設計をスムーズにするだけでなく、従業員に改定の意図を説明するためにも重要です。

賃金改定のニーズを明らかにするためには、企業を取り巻く「外部環境」、「事業活動の方向性」、「人材活用に関わる方針」、「労働環境」などの要素について確認していきます。例えば、製造業において、「競合他社との差別化ができていて、これからも自社独自のノウハウを高めていきたい」というニーズがあれば、研究開発職の処遇をより改善することになるでしょう。

参考:中小企業のモデル賃金

給与改定に取り組む前に確認しておきたい5つのこと

給与改定に取り組む際には、次の5つを確認しておきましょう。いずれも、とくに中小企業が陥りがちな「給与体系や査定への誤解」を含んでいますから、関連記事も含めて参考にしてください。

間違った給与の決め方をしていないか?

経営者が独断で社員全員の給与額を個別に決めたり、過去の昇給額を基準にしたりしていると、整合性のある給与制度は生まれません。給与制度に整合性がとれていなければ、社員に「どうしてその給与額になったのか」をきちんと説明できず、不満が生まれてしまいがちです。

とくに「副部長」「課長代理」といった「名ばかり役職」が多い会社は要注意です。社員全員が納得でき、やる気のある社員が辞めない給与体系を作るためには、給与に関する意識改革が必要となるでしょう。具体的な「間違った給与の決め方」がどのようなものかについては、以下の記事を参考にしてください。

あなたの会社は大丈夫?間違った給与の決め方から整合性のある給与制度へ移行する方法

給与制度の役割を正しく理解しているか?

給与制度の役割は、社員のモチベーションを高めることだけではありません。もっと大事な役割があります。それは、社員の「貢献度」と「成長度」を見える化すること。社員を成長させることが、会社の成長にまっすぐつながっていきます。給与制度は、社員の「成長のバロメーター」であり、そしてそれは会社の成長のバロメーターでもあるという意味を持ちます。

もし、「給与改定によって給与をアップすれば、よりやる気になってくれるに違いない」という考えだけで給与改定を行ったとしたら、給与水準はアップするものの、社員や企業の成長にきちんとつながる制度を作れていない可能性があります。戦略的な給与改定の方法については、ぜひ以下の記事も参考にしてください。

賃金制度・給与制度の本当の役割、社員を成長させる賃金制度の作り方

給与査定の運用ルールの作り方を理解しているか?

社員のモチベーションを持続させるために必要なのは、高い給与ではありません。給与査定ルールへの「納得感」です。そのためには、複雑な運用ルールを導入するのではなく、社員がすぐに理解できる査定ルールを採用しなければなりません。

給与のみならず、賞与についても、査定ルールを確立して全社員にオープンにしましょう。シンプルかつ納得感のある給与査定の運用ルールについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

社員のやる気を引き出す「給与査定」の運用ルール作りのコツ

昇給制度の基本的な考え方を理解しているか?

昇給制度について、「給与を上げて、社員のモチベーションを維持させるためのもの」とだけ考えていませんか。昇給だけでは、社員のやる気は長続きしません。評価制度と連動して運用し、やる気を持続させる仕組みを作らなければ、効果は見込めないでしょう。

正しい評価制度で社員のモチベーションアップを図ることが先決で、正しい評価制度のためには、客観的な基準を盛り込んで作った給与査定テーブルが必要になります。どのような考え方に基づく昇給制度が必要なのか、以下の記事に詳細があります。

昇給制度の基本的な考え方、昇給だけでは”やる気”は長続きしない

役職手当を何となくで決めてしまっていないか?

役職手当を「何となく」決めてしまっていると、管理職層の給与が平社員の給与に届かないという事態が起こりえます。管理職層には時間外手当がないため、たくさん残業した平社員のほうが、給与が多くなってしまうのです。これでは「管理職になりたくない」という社員が増えてしまいます。

また、「何となく」で役職手当の額を決めてしまっていると、社員から手当金額の基準を求められても、納得のゆく回答ができません。役職手当についても、しっかり根拠を示し、また下層グレードの社員の賃金を下回らないような制度の工夫が必要です。役職手当については、以下の記事をご覧ください。

役職手当の決め方と設定方法、社員を育てる賃金制度の仕組み

給与改定におすすめの給与テーブル

給与改定の際、経営者や人事担当者の頭を一番悩ませるのが給与テーブルの調整です。給与テーブルの開発による人的コストを少しでも減らすには、モデルとなる給与テーブルを使うのが近道です。

当サイトでは、給与改定や移行に使える給与テーブルのExcelテンプレートを以下のページで無料配布しています。作り方のノウハウとともに、ぜひ参考にしてください。

賃金テーブル(給与テーブル)のつくり方、現行の運用体制からの移行手順

賃金改定のベストな時期

賃金改定のベストな時期は、会社の決算期に合わせた時期です。次年度の人件費を検討したり、その結果を適正に反映させたりしたいのならなおさら、決算期に合わせましょう。

給与改定は「4月」というイメージがあります。新入社員が入社したり、春闘がメディアで紹介されたりする時期でもあるためです。「改定するなら4月をめどにするのが良いだろう」と考えている人は、自社の決算期に沿った改定時期となっているかを確認しましょう。決算期の翌月か、半年ごとに改定する場合は半期終了月の翌月がベストです。

賃金改定と運用方法は、以下の書籍でより詳しく解説しています。
小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方 「やる気のある社員」が辞めない給与・賞与の決め方・変え方

小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方

おわりに

以上、給与改定に必要な考え方について解説しました。給与改定時には、確固たる方針を持ち、また客観的基準をきちんと設定しながら給与テーブルを調整するのが重要になります。

しっかりした基準に基づいた給与改定であれば、社員の納得度はアップし、もしも給与が上がらなくても、モチベーションは上がることでしょう。ぜひ、経営者、人事担当者らがじっくり話し合い、自社オリジナルの給与体系を作成してください。

この記事を監修した人

代表取締役山元 浩二

経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である『【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版)を出版。累計14万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。

個人ブログ:https://jinjiseido.co.jp/blog/

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日本人事経営研究室 代表取締役 山元浩二氏

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