年齢給が人材流出の原因に…年齢給は固定給への組み入れを推奨
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現在、年齢給を取り入れているという会社は、それが時代に合っているかどうかを考えたことがあるでしょうか。日本の伝統的な賃金体系の一つである年齢給は、能力主義や成果主義を求める声を受け、廃止する会社が多くなってきています。人材流出の原因にもなりうる年齢給をやめ、固定給に組み入れる方法について解説します。
年齢給とは
年齢給とは、年齢や勤続年数が増えるほど給与がアップする賃金制度です。新卒で入社し、定年まで勤め上げる終身雇用制度が当たり前であった時代の日本では、この年齢給が多く使われてきました。
しかし継続的に景気が低迷している昨今、毎年一定額をアップさせるような年齢給を維持できる企業は、多くはありません。また、「若くても成果を上げられる人や、中途採用でスキルの高い人を優遇せよ」というニーズの高まりとともに、年齢給の廃止が相次いでいます。
年齢給と勤続給の違い
年齢給と勤続給とを同一視している企業は多いでしょう。しかし、厳密にいえば、以下のような違いがあります。
年齢給とは、年齢によって決められる賃金のことで、同一年齢の人は同一年齢給となります。人は一般的に年齢が高くなるほど、結婚や子育てなど必要な生活費用が増えていく傾向にあります。その事情をかんがみて、年齢の高い人ほど生計費として給与をプラスするという考え方から付与される賃金です。
一方で勤続給とは、能力とは関係なく、勤続1年につき何円という形で昇給していく給与のことです。長く会社に貢献すればするほど、勤続給はアップしていきます。
新卒採用者であれば、年齢給は、イコール勤続給という考えになってもあまり問題はないでしょう。年齢が上がるにつれて、勤続年数も多くなっていくため、年齢給であっても、勤続給であっても、支給金額は年ごとにアップしていきます。
年齢給と勤続給の違いが意識されるのは、中途採用者についてです。年齢給であれば、中途採用者であっても年齢が高めの人は高い給与を得ることができます。しかし、中途採用者は勤続が短いため、勤続給は少なくなります。
年齢給のメリット・デメリット
年齢給のメリット
年齢給のメリットは、成果に関わらず、長く勤めるほど給与が上がっていく点です。結婚して子供ができて…と歳を重ねて生活に必要なお金が増えていくのに比例して給与もアップしていくので、社員にとって大変助かる制度と言えるでしょう。
昇進したり、大きな成果を上げたりしなくても勤続するだけで給与が上がっていく制度は、サラリーマンたちにとって大変ありがたいものでした。よって制度が維持できていた経済成長期の日本においては、会社への帰属意識が高まり、離職率も低く抑えられていたのです。
年齢給のデメリット
一方で、年齢給のデメリットは、正当な評価なしに、自動的に給与がアップしてしまうことです。何の成果もあげない社員が、勤続年数の多さだけで高い給与を得ているということもありえます。
これは、若手や中途社員のモチベーションを、著しくそぐものです。優秀な人材ほど、会社に対する不信感を強くしてしまいます。とくに終身雇用制度が崩壊し、転職が当たり前になった現代においては、年齢給が裏目に出てしまう会社も多いでしょう。
また、何もしなくても給与が上がるのですから、会社に入ったときにはやる気に満ちていても、そのうち言われた仕事しかしなくなるという人もいるでしょう。長く働いている人も、新卒者も、中途社員も、皆モチベーションがないのですから、会社の成長に大きなダメージがあります。
年齢給が人材流出の原因に…
年齢給は、人材流出の原因になる可能性が大きい制度です。年齢給制度を定めれば、高い給与に見合うように、実力が伴っていなくても年長者に役職がつくことがあります。管理職になればいやがおうでも人を指導しなければなりません。
しかし、勤続年数が長い、あるいは年齢が高いというだけで役職を与えてしまうと、部下育成力やマネジメント力の低い人が部門長を務めるケースも出てくるでしょう。すると若い人材が育たずに辞めていく、優秀な中途社員が呆れて離職するといった事態につながってしまいます。
実はこれが、中小企業がある一定の規模から成長がストップしてしまう大きな要因となっているのです。役職者として必要な要素を持ち合わせていない人の昇格をストップするシステムがなければ、企業としての生き残りは難しいといえるでしょう。
年齢給は名ばかり管理職の問題にも関わってきます。名ばかり管理職については以下の記事で解説しています。
年齢給は固定給への組み入れを推奨
優秀な人材の流出を食い止めるために、給与体系の再構成を行いましょう。具体的には、年齢給を固定給へ組み入れることを推奨します。
固定給に入れるべきなのは、年齢給だけではありません。「本給」「職能給」「職務手当」「調整給」など、仕事の役割や貢献度に応じて支給している項目は全て、固定給に組み入れて考えてください。
また、年齢給と同じような意味合いを持つ「勤続給」のほか、「資格手当」「家族手当」「住宅手当」「皆勤手当」など、仕事の成果や貢献度とは関係ない項目も、組み入れられないかどうか検討しましょう。その結果、どうしても残す必要があるものだけを存続させるのです。
特に中小企業では、社員の実態管理が細かくできずに、支給の条件から外れたものに継続して支給していたり、条件を満たしているものには支給されていなかったりすることが少なくありません。不均衡をなくすためにも、給与体系はシンプルなものへ変更するのがおすすめです。
固定給を含めた給与体系全体の決め方については、以下の記事も参考にしてください。
年齢給のない給与体系の例
年齢給を廃止した後は、「本給」「仕事給」「役職手当」の3つを支給項目として分解します。本給と仕事給は、合わせて「基本給」としましょう。それぞれの性格は、以下の通りです。
本給は、勤続給的な性格を持った、積み上げ型の支給項目です。ただ、たんに積み上げ式にすると、役職がつかなくても勤続年数が増えるごとに年収が際限なく上がっていってしまう恐れがあります。そこで、グレードごとに上限、下限を決めておくと、際限なく積みあがっていくのを防ぐことができます。
仕事給は、評価するたび、あるいは一定期間の評価結果に基づいて、金額を変動させる項目を指します。前回の評価と比較して、評価が上がれば賃金がアップし、下がればダウンするといった形で運用します。
役職手当は、役職に応じて一律の金額を決めて支給する項目です。役職者には残業手当が付かないのが一般的なため、一般社員の上限金額よりも役職者の賃金が少なくならないよう、配慮する必要があります。役職手当の金額を調整することで、それが可能になります。
固定給の要素の具体的な決め方については、以下の記事で詳しく解説しています。参考にしてください。
固定給に含まれる給与、固定給は3つの項目への分解を推奨
年齢給の廃止で名ばかり管理職を防止
年齢給を廃止すれば、名ばかり管理職を防止させることが可能になります。特に役職手当を定めるときのポイントは、スキルや経験がその役職に到達していないのに、給与を上げるためだけに昇格させた「名ばかり管理職」を整理すること。「部長補佐」や「課長代理」といった肩書はとりやめて、実力に応じた役職を付与しましょう。
年齢や勤続年数の長さだけで管理職を与えると、名ばかり管理職になる可能性があります。名ばかり管理職の存在は、「肩書に給与が見合っていないケースが散見される」「残業代がつかない管理職に昇格させると、実際の給与額がダウンする恐れがある」と問題視されています。
名ばかり管理職がいると、本人にも、周囲の社員にも、会社に対する不信感が募ります。不信感は、やがて退職を決意させるのに十分な重みを持つこともあります。また、管理職になると実際の給与額がダウンするのであれば、誰も管理職になりたくないと昇進を拒むケースが多くなるでしょう。
この機会に役職を見直し、整理してみましょう。名ばかり管理職にまつわる問題については、以下の記事も参考にしてください。
おわりに
「ずっと続けてきた年齢給をやめてしまったら、長く勤務して来てくれた社員に申し訳ない」「逆に離職者が増えるのでは?」と心配する経営者の方もいることでしょう。しかし、成果とは関係のない給与項目を設けている方が、ずっと問題です。やる気のある社員のモチベーションを下げ、やる気のない社員のやる気を、さらに消失させてしまいかねません。
人材不足の今だからこそ獲得すべきは、本当に成果を出してくれる社員、自ら成長したいと願う社員です。それを忘れずに、どんな給与体系であれば社員が自分の能力を発揮しながら生き生きと働ける会社になるかを考え、作り替えていきましょう。
人材流出を防ぐなら、ビジョン実現型人事評価制度®の導入と運用がおススメです。ビジョン実現型人事評価制度®の作り方は以下の記事を参考にしてください。
この記事を監修した人
代表取締役山元 浩二
経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である『【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版)を出版。累計14万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。
日本人事経営研究室は仕事創造型人材を育て、成長し続ける強い企業づくりをサポートします
私たち日本人事経営研究室は、"人間成長支援"をミッションとし、
中小企業の持続的成長をサポートしています。
「人材」ではなく「人間」としているのには、こだわりがあります。
それは、会社の中で仕事ができる「人材」ではなく、仕事を通じて地域や環境、社会に貢献できる「人間」を育てる事を目指しているからです。
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