人事評価制度は5つの運用ステップで理想の人材を育成する
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リーダーたちが全身全霊をかけて人事評価制度を作っても、なかなか定着しないという会社は少なくありません。評価制度をきちんと経営に活かすには、設計以上に運用が重要です。人事評価制度を運用にのせるための5つのステップを説明します。「1.評価者の実施」「2.育成会議」「3.育成面談」「4.成長目標設定」「5.チャレンジ面談」の、5つのステップです。1つずつ詳しくみていきましょう。
理想の人材へ導く「評価制度」運用5つのステップ
まずは、人事評価制度を定着させるための運用ステップについて、概要を確認しておきましょう。
ステップ1.評価の実施
参加者:評価者、評価者の上の上司、被評価者
評価は、上司2名と被評価者の3名で行います。直接の評価者(リーダー)が評価基準に基づき、被評価者(部下)の評価を行います。リーダーの上司も、被評価者である部下の評価を行います。また、部下本人も、自分自身の仕事を振り返って自己評価します。
ステップ2.育成会議
参加者:評価者、評価者の上の上司、コーディネーター
評価者の上司同士のバラツキを統一し、評価結果を決定します。なお、部下の育成の方向性を上司2人で共有します。コーディネーターを調整役として置くのがいいでしょう。
ステップ3.育成面談
参加者:社長(評価者の上の上司)、評価者、被評価者(部下)
部下に評価結果を伝え、それに基づいた成長のための目標を上司と部下本人で共有します。
ステップ4.成長目標設定
参加者:評価者、被評価者
「ステップ3」で決めた目標に沿い、「チャレンジシート」を使って具体的な取組内容、手順を計画します。
ステップ5.チャレンジ面談
参加者:評価者、被評価者、社長
目標の進捗状況、達成度を毎月の「チャレンジ面談」で確認、アドバイスします。
この5つのステップを通じてPDCAをまわします。これらの運用プロセスを実施することはもちろんですが、きちんと行われているかチェックすることも運用を成功させるうえでとても重要なことです。このステップを手順通りに、リーダーが主体的に推進し、全社員が取り組んでいる状態となることが、戦略で成果を出せる人材を育成できる条件です。
ではそれぞれの運用実施の方法を詳しくご紹介しましょう。
ステップ1.評価の実施
参加者:評価者、評価者の上の上司、被評価者
評価を実施するときには、次の3つに気をつけてください。
1つめは、評価は必ず「本人」「直属の上司」「その上の立場の上司」の3者で行うことです。その上の立場の上司です。上司2人で評価することによって評価結果に客観性を持たせ、納得度を高めます。また、部下に自己評価を行ってもらうことで自分の仕事レベルを適正に把握できる力を身につけてもらいます。
2つ目は、その三者がそれぞれ個別に評価を実施すること。1枚の評価シートを使って評価すると、どうしても部下の自己評価に上司が引っ張られたり、1次評価者に2次評価者が影響されたりということが起こるため、それを防がなければなりません。
3つ目は、必ず評価項目ごとに判断理由を記入すること。判断理由を具体的に記入するためには、とくにリーダーは、部下の仕事ぶりをしつかり観察し、把握しておく必要があります。すると部下とのコミュニケーションの量や、指導の機会の増加につながり、リーダーに育成能力がついてきます。
ステップ2.育成会議
参加者:評価者、評価者の上の上司、コーディネーター
「育成会議」とは、「直属の上司」と「その上の上司」との間の評価結果のすりあわせの場です。「育成会議」の目的は、「評価者同士の判断基準をそろえること」「被評価者の育成の方向性を上司同士で共有すること」の2つです。
上司2人が同じ部下の評価を行なうと、必ず評価結果にバラツキが出ます。これをそのまま本人に伝えると、評価制度に対する不信感につながりかねません。そのため、「育成会議」で、上司2人の間で差異がある項目はすべてすりあわせをし、統一します。
また、この「育成会議」にはコーディネーター役が必要です。コーディネーターは、当社のコンサルティング先ではコンサルタントが務めるのですが、自社で行なう場合は社長か役員クラスの人が担当してください。客観性を保って、どんな評価者に対しても言うべきことが言える人材であることがポイントです。
ステップ3.育成面談
参加者:社長(評価者の上の上司)、評価者、被評価者(部下)
評価制度を運用するなかで、とくに人材育成の重要なポイントとなるのが育成面談です。目的は「評価結果を伝え、納得してもらうこと」と、「本人の成長目標を上司と共有すること」の2つです。
一般的な面談はフィードバックなどと呼ばれ、評価結果を伝えることに重点が置かれます。しかし、私が提案している「ビジョン実現型人事評価制度®」は、目標の共有を重視します。戦略を推進し、目標を達成できる人材育成が目的だからです。
「育成面談」は、育成支援の場です。着実に本人の成長につなげるための目標設定を行い、面談が終了した時点では、評価結果が悪かった人でもモチベーションを上げる面談を実行しなければなりません。
育成面談については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
ステップ4.成長目標設定
参加者:評価者、被評価者
被評価者が、「育成面談」で明確になった成長目標を設定します。自分自身の成長に向けた目標を【チャレンジ目標】として3項目設定し、次の内容を作成します。
- 【チャレンジ目標】対象となる評価項目を記入します。
- 【到達レベル】どのような状態を目指すのか、ゴールを設定します。
- 【推進手順】到達レベルまでの手順を番号順に箇条書きで記入します。
本人が作成したものは直属の上司に提出し、評価者である上司からアドバイスを受け、必要な場合は修正します。この【チャレンジ目標】は、「チャレンジシート」に書き込みましょう。チャレンジシートの作り方は以下の記事で詳しく解説しています。
ステップ5.チャレンジ面談
参加者:評価者、被評価者、社長
「チャレンジ目標」は、毎月面談を行い、上司が実施状況を確認して支援します。これが「チャレンジ面談」です。毎月のことなので、10分程度で終わるのが理想的です。
面談は毎月確実に実行することが人材育成につなげる重要なポイントです。チャレンジシートがきちんと運用できていれば、全社員が各自の目標に向けてしっかりチャレンジし続けている状態を保てます。これが、全社員を一歩ずつ着実に、成長に向けてステップアップさせていくことにつながるのです。
なお、この毎月の面談をリーダー任せにしておくと、面談を行わない月があったり、適当にこなす評価者が出てきたりすることも考えられます。ここで社長の出番です。全評価者がチャレンジ面談を毎月行っているかどうか、社長がしっかりモニターできる仕組みを確立しておきましよう。
チャレンジ面談は以下の2つのステップで実施します。
- ステップ1
月初めに部下本人がチャレンジシート内の「自己コメント」欄に毎月の実施状況と反省、改善点などを記入し、リーダーに提出する - ステップ2
リーダーは「上司コメント」欄に推進のためのアドバイスなどを記入したうえで面談を行い、本人の目標達成に向けてアドバイスする
しかし、たった2つのステップでも、手順を評価者に指導するだけでは、なかなか継続できないものです。そこで次の3つのルールを設けてしっかり実施されるように運用します。
- 1.面談は1人10分以内をめどに実施
- 2.面談実施の日時を毎月評価者から本社担当者に報告してもらう
- 3.評価者が集まるリーダー会議などにチャレンジシートを持参させる。
チャレンジ面談は1度きりで終わらせず、通常業務の一環として習慣化するように仕組み化するのがポイントです。社長自らチャレンジ面談の重要度を社員に伝え、社内で定着するようにしていきましょう。
上司の面談を受ける部下
「育成会議」の例
それでは実際に、以下の配役で「育成会議」を再現してみましょう。
- 被評価者:和田さん(若手営業マン)
- 直属の上司:阿部部長
- その上の上司:小林部長
- コーディネーター:井口社長
井口社長「それでは、和田君の『目標に対する取り組み』の項目について、部長はC評価、課長はA評価と結果に差があるが、それぞれ根拠を聞こうか」
阿部課長『和田さんは今期結果にこだわり、個人目標を達成したうえ、我が社の今後の主要取引先に育つ可能性がある○○社からの大型契約も取ってきました。だから、私はA評価が妥当だと思いました』
小林部長「たしかに○社からの大型受注は大きな仕事だったと思います。ですが、彼はその1ヶ月前に伝達ミスによって××社との年間契約を失ってしまいました。そのため『目標に対する取り組み』については、厳しめにC評価にした方が本人の成長につながるのではないかと判断しました」
井口社長「確かに部長が言うように××社との年間契約がなくなってしまったのは大きな痛手だった。ただし、その損失をカバーするために○○社との契約を取ってきたのは、きちんと評価するべきだろう。この努力を評価せずにCとしてしまっては、本人のモチベーションにも悪影響が出るかもしれない。よって、和田君の『目標に対する取り組み』の項目は、B評価とし、彼には『報告・連絡・相談』の項目をC評価として改めてもらうように指導をしよう」
いかがでしょうか。この場合は、課長と部長の評価結果が修正され、部長が「目標に対する取り組み」で評価した××社の損失は、「報告・連絡・相談」の項目で反映し、本人の指導につなげていく育成方針が決まりました。
もちろん、この2項目だけで上司2人の判断基準が全て一致するわけではありません。ですが、こうしたすりあわせを毎回行えば、徐々に評価のずれが修正され、正しい判断ができるようになるのです。
評価の期間は四半期がベスト
一般的に、評価は6ヶ月ごとに行うことが多いと思われます。しかし、私は3ヶ月ごとの評価を推奨しています。
その理由は、2つあります。「適正な評価とするため」「成長スピードを速めるため」の2つです。それぞれ解説します。
適正な評価とするため
理由の1つめは、部下の仕事ぶりをきちんと覚えている期間には限りがあり、評価期間が長いからといって適正な評価とはならないためです。6ヶ月ごとに評価を行う場合、仮に4月に評価を実施すると、その対象期間は前年度10月から当年3月となります。あなたは5、6ヶ月前、10月や11月の部下の仕事ぶりをハッキリ覚えていると断言できますか?
そう、6ヶ月間を振り返り、総合的な判断を適正に下せる人はほとんどいないのです。適正な評価を行うための根拠となる事実が直近の出来事だけになってしまったり、目立つ成果や失敗のみで判断してしまったりしがちになります。
すると本人が納得できない評価結果になる恐れが高まります。部下も上司も、仕事への取り組みをきちんと覚えている期間内の評価にするためには、3ヶ月間が適当です。
成長スピードを速めるため
理由の2つめは、頻繁に評価を行った方が、社員の成長スピードを速めることができるためです。「評価=人材育成の機会」ですから、この視点が一番大事です。
実際、当社のクライアントでも社員数が多いなどの理由で6ヶ月ごとに評価を行っている会社があります。しかし、3ヶ月ごとに評価を行っている会社と比較すると、圧倒的に後者の社員の成長スピードが違うのです。
成長スピードでいえば、評価者であるリーダーの成長スピードは、6ヶ月評価とは比べものにならないくらい早いといえます。そのスピード差は倍どころではなく、3倍から10倍は違います。
ここで、評価制度の「5つの運用プロセス」をもう一度確認してください。部下の仕事ぶりをしっかり観察し、事実に基づいて適正な評価を行い、本人の成長に効果的な目標を設定し、達成状況を確認、サポートしていく。これを、リーダーが3ヶ月ごとに回すのと、6ヶ月ごとに回すのでは、成長スピードが速いのはどちらでしょうか。答えは明らかでしょう。
結果として、業績や会社の成長にも影響してくる事柄です。ぜひ、四半世紀評価を実施してみてください。
まとめ
人事評価制度の設計と運用の重要度は2対8と考えてください。それほどまで運用が重要です。また、全く不満が出ない人事評価制度はありません。それを覚悟し、5つのプロセスで丁寧な運用を心がけましょう。
多少時間がかかっても、社員ひとりひとりにオリジナルの目標意識を持たせ、面談では評価を下すのではなく次期目標や課題を示すことを主目的とすれば、みんなのやる気は間違いなく高まります。
人事評価制度の作り方・設計の仕方は、以下の記事で詳しく解説しています。
人事評価制度とは「人材を育成するための仕組み」、人事評価制度・経営計画の作り方まとめ
この記事を監修した人
代表取締役山元 浩二
経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である『【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版)を出版。累計20万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。
日本人事経営研究室は仕事創造型人材を育て、成長し続ける強い企業づくりをサポートします
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中小企業の持続的成長をサポートしています。
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