社員のやる気を引き出す「給与査定」の運用ルール作りのコツ
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給与査定は、社員のやる気に大きく影響します。しかし、給与アップで一時的に社員のやる気が高まったものの長続きしない…と悩んでいる経営者は多いのではないでしょうか。
社員のモチベーションを持続するために必要なのは、高い給与ではなく、給与査定ルールへの「納得感」です。本記事では、社員のやる気を引き出す「給与査定の運用ルール」作成のコツをご紹介します。
給与査定の運用ルール作りの準備
給与査定の運用ルール作りをする前に、基本給を決めましょう。基本給とは、固定である「本給」と、評価のたびに金額が変動する「仕事給」を合わせた給与のことです。
「本給」は、勤続給的な性格を持ち、年に一回定期的に昇給します。社員がもらえる最低限の金額が、「本給」です。
一方で「仕事給」は、前回と比較して評価結果が上がれば金額が上がりますが、評価が下がれば金額が下がります。四半期の評価ごとに変動を行う会社は少なく、半年ごとに変動させるのが最も多い運用パターンです。
「本給」と「仕事給」の決め方については、以下の記事も参考にしてください。
給与査定の運用ルールの作り方
給与査定は、「本給」と「仕事給」、そして「調整給」それぞれのルールを定めて運用します。どのように運用するか、給与の種類ごとに詳しく解説します。
「本給」の運用方法
「本給」は、毎回変動することのない、最も基本的な給与の単位です。まずはグレードごとに「本給」を設定し、改定のタイミングを決めましょう。
1年間の仕事ぶりや貢献度を昇給に反映させるためには、会社の決算期に合わせた給与改定がベストです。給与改定(賃金改定)については「春闘」がメディアなどで紹介されるため、4月改定が一般的だと認識している人も多いかもしれません。しかし、次年度の人件費を検討したり、その結果を適正に反映したりするためには、各会社の決算時期に合わせるのが最も適切です。
昇給方法としては、原則的には毎年一定額を加算します。そのために、本給標準昇給額のテーブルをあらかじめ作成しておきましょう。ただ、会社が利益や売り上げなどの目標を達成することが、昇給額を確保する条件とします。利益が不十分だった際には、昇給額のテーブル自体を減額し、社員間に不平等が生じないように気をつけましょう。
「仕事給」の運用方法
「仕事給」についても、グレードごと、ランクごとにあらかじめ昇給金額を決めておきましょう。ランクは「SS」を筆頭に、「S」「A~E」まで7段階程度とし、最初は全員を「B」のグレードに置くのがおすすめです。
改定のタイミングは年2回、昇格や降格があったときが一般的です。改定時期は、半年ごとに改定する場合、決算月の翌月と、半期終了月の翌月としましょう。
もしも年1回の反映ルールで導入したら、給与が下がってしまった人のモチベーションに多大な影響を与える可能性があります。評価が下がり、1年間そのままだった場合と、半年後には元に戻るかそれ以上の金額になるチャンスが与えられている場合とでは、どちらがやる気になるでしょうか。せめて半年後には挽回できるようにするのが大事です。
「調整給」の運用方法
給与の要素には、「調整給」もあります。「調整給」とは、査定基準にのっとって給与を計算したとき、支給額が少ないと判断された場合に発生するものです。「調整給」がなければ社員のモチベーションは下がってしまいますが、給与査定基準を不透明にさせる原因になる、厄介なものです。
「調整給」がやむを得ず発生する場合は、だんだん減額していき、最終的にはゼロ円にするという運用ルールを予め決めておくのが大事です。具体的な減額方法は、次の3通りがあります。
昇給額で吸収する
昇給したら調整給から減額する方法です。制度移行後の給与改定時期に昇給があれば、その分を調整給から減額していきます。
これを、調整給が0円になるまで継続して実施します。そのため、調整給が0円になるまで給与総額は上がりません。
保障する基準を決める
調整給を0円とする時期を決めます。つまり期限が来た時点で調整給が残っている社員は、その金額分だけ給与が下がることになります。
この場合、保障期限は調整給をなくすための猶予期限です。社員の立場からすると「自分がもらっている給与額相当まで実力をアップさせる期限」になります。
減額する基準を決める
保障期限を迎えたときに残った調整給を一気に0円とするのではなく、減額のルールを決めて、徐々に減らしていく方法です。中小企業で新制度を導入する際は、この形で運用するケースが多いです。
実際には様子をみながら、緩和措置として基準を追加させるなど、社員の過度な反発を招かない方法を探っていくのがいいでしょう。会社の風土により、基準や期間を調整します。
以上3つの運用方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。具体的な運用方法について解説しています。
「マイナス調整給」の運用方法
給与が各グレードの下限額に届かない人の場合は、マイナス調整給を支給して不足する「本給」を補う方法があります。「-10,000円」などの表示が給与支給項目として加わりますが、実際に金額を支給するわけではありません。
マイナス調整給を導入すれば、現状の給与が求められている仕事や役割に対する報酬に届かない人の給与調整法として役立ちます。ただ、あくまで一時的な経過措置とすべきです。
マイナス調整給についての具体的な運用方法については、以下の記事をご覧ください。グレードに対して報酬が少ない人の給与体系に関して、他の対処法についても解説しています。
賞与査定のルールづくり
賞与についても、査定のルールを確立させ、全社員にオープンにしておくのが、モチベーションを上げるコツです。賞与については「業績や成果に応じて支給される給与」という考え方が一般的で、支給額に差をつけている企業も比較的多く見られます。しかし、格差がついているからこそ、不満の種につながる危険性もはらんでいます。
賞与は、会社の業績に応じて全社員への支給総額を決め、個人の成果に合わせて支給額が決められるべきものです。そして、金額を決める基準を全ての社員が知り、納得していなければなりません。
そうでなければ、「会社の業績が下がったのに、どうして上司の賞与は一定なのか?」「グレードが変わらないあの社員と自分との賞与額に差がついたのはなぜか?」と、社員間の不満が高まってしまいます。基準がオープンでなければ、賞与の額について根も葉もないうわさが飛び交ってしまうことにもなりかねません。
賞与は半年に一度の支給が一般的です。ここで詳しく書くと長くなるので、賞与の査定ルールについては、以下の記事を参考にしてください。
社員が納得する賞与(ボーナス)の査定ルール/賞与支給基準のつくり方
給与査定の運用方法は、以下の書籍でさらに詳しく解説しています。
小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方 「やる気のある社員」が辞めない給与・賞与の決め方・変え方
給与査定ルール移行前に年収シミュレーションを行う
新しい賃金体系に移行できるめどがついたら、社員の年収がどうなるかについて、あらかじめシミュレーションしておきましょう。給与、賞与いずれについてもシミュレーションするのがポイントです。
給与に関しては、調整給を活用するなどして、現行の金額そのままで移行できるような工夫をすることが可能です。
一方、賞与は「会社の業績に連動して支給総額を決め、評価結果に応じて分配する」考え方を取り入れるため、支給額は毎回変動することになります。移行前に比べて上がる人も入れば、下がる人も出てくるでしょう。
業績の結果に応じて人件費をコントロールできれば経営の安定化が図れます。しかし中小企業では賞与を生活給的位置づけに捉えている社員も多いため、これが保障できないとなると不満につながるケースもあります。
そこで、給与だけではなく賞与も組み込んだ年収のシミュレーションをあらかじめ行いましょう。誰の給与がどれだけ下がる可能性があるのかを把握した上で、社員に年収の全体像を理解してもらいます。
年収シミュレーションの流れ
シミュレーション方法としては、まず社員全員の過去1年分の年収を算出し、次に新賃金制度移行後の年収額を算出して、差額を比較します。
移行後の賞与金額を、どのようなパターンに基づいて算出するかがポイントになります。少なくとも、総支給額と社員の賞与ポイントの両方で、シミュレーションをしておきましょう。考えられるパターンは、以下の3つです。
- 1.会社目標達成度が標準レベル
例)目標達成率100% - 2.会社目標達成度が高かった場合(想定される範囲内)
例)目標達成率120% - 3.会社目標達成度が低かった場合(想定される範囲内)
例)目標達成率80%
賞与ポイントにも、パターンを作っておきましょう。作るべきパターンは、以下の2つです。
a.全社員が「B評価」だった場合のポイント
b.評価に差をつけた場合のポイント
それぞれのパターンを組み合わせると、以下の6つの賞与シミュレーションができます。
1×a
1×b
2×a
2×b
3×a
3×b
この6つのパターンで想定年収を算出し、過去1年の年収と比較しておきましょう。全てのパターンを細かく社員全員に説明する必要はありませんが、経営幹部、できれば評価を行うリーダーとはしっかり内容とシミュレーション結果を共有しましょう。そして社員から質問があったら対応できるようにしておくことが重要です。
評価制度で給与査定の評価基準を明確にする
新給与制度がスタートしたら、やれやれと胸をなで下ろす経営陣がほとんどでしょう。しかし、そこからが本番です。新しいことを始めると、社員から反発の声が上がるというのは、どんな組織でもあり得ることです。「給与が少なくなったことに納得がいかない」という不満が生まれたときこそ、踏ん張り時です。
不満や反発が生まれたときに、慌てて旧制度へ戻したり、賃金アップを行ったりと付け焼き刃的な対応をしないようにしましょう。社員にとって重要なのは、金額よりも評価結果です。給与額の客観的な根拠を粘り強く伝えていけば、社員の納得を得られるでしょう。
評価する側であるリーダーが、評価される側である部下に対して評価の客観的な根拠を説明し、納得感を得てもらう過程では、必ず社員の成長があります。そこに生まれるのは、リーダーとしての責任感とマネジメント能力、部下を育成する力です。給与制度の移行で、リーダーが躍進的に成長できるのです。
私は数々の企業のコンサルタント経験から「日本の中小企業には中間管理職がいない」と実感しています。中小企業の中間管理職には、単にプレイヤーとして優秀な人、経験が長い人、コミュニケーション能力がある人が選ばれる傾向にあります。しかし、リーダーに本当に必要な力は、部下をマネジメントし、育ててゆく能力です。
真にリーダーに必要とされるマネジメント力、育成能力を身につけさせることができるのが、私が提唱している「ビジョン実現型人事評価制度®」の運用です。その手順は、以下の通りです。
- ステージ1:「経営計画」を策定する
- ステージ2:「評価制度」を構築する
- ステージ3:「評価制度」を運用する
- ステージ4:「経営計画」を運用する
- ステージ5:「賃金制度」を設計する
- ステージ6:全体を連動させて運用する
「経営計画」で「経営理念」や会社の将来の「ビジョン」を示し、実現に向けた「事業計画」や「戦略」を明確にします。これに沿って社員一人一人の役割を落とし込んだ「評価基準」を作成し、運用することで、会社が求める人材作りを行うことができます。
また、リーダーが中心となって目標達成に向けた戦略を推進することで、会社の戦略推進を任せられるリーダーが育ちます。その成果と成長の結果を、賃金に結びつけるのです。
この一連の仕組みが、「ビジョン実現型人事評価制度®」です。詳細は、以下の記事をご覧ください。
おわりに
以上のように、社員のやる気を引き出すためには、単に給与金額をアップさせるのではなく、「納得感」が大事です。納得感は、査定ルールが確立され、さらに適正に運用されていることを社員が確認できてこそ生まれます。
「給与をアップさせているのに、どうもモチベーションが上がらない」「ボーナス支給時でも社員の顔が輝かない」と悩んでいるなら、ぜひ給与査定のルールを見直してみましょう。不透明なところを徹底的になくせば、社員の笑顔もやる気も、戻ってくるに違いありません。
ただし、給与査定の運用ルールだけ整えても、仕事の取り組みや姿勢を評価する仕組みがなければ、うまく機能しないでしょう。納得度の高い給与査定を行うには、人事制度が必要です。人事評価制度を整えることで、上述した給与査定の運用ルールが効果を発揮します。
人事評価制度も「納得感」が大事です。社員が評価に納得すれば、「前向きに取り組もう」という意識が生まれてくるでしょう。以下の記事に人事評価制度づくりのポイントをまとめていますので、ぜひ併せてご覧ください。
この記事を監修した人
代表取締役山元 浩二
経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である『【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版)を出版。累計14万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。
日本人事経営研究室は仕事創造型人材を育て、成長し続ける強い企業づくりをサポートします
私たち日本人事経営研究室は、"人間成長支援"をミッションとし、
中小企業の持続的成長をサポートしています。
「人材」ではなく「人間」としているのには、こだわりがあります。
それは、会社の中で仕事ができる「人材」ではなく、仕事を通じて地域や環境、社会に貢献できる「人間」を育てる事を目指しているからです。
日本人事経営研究室では、そのために必要な「人」に関するサービスや情報を提供しています。