時間外手当て(残業・深夜・休日手当)の考え方や種類、計算方法を解説
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所定労働時間を超えた労働については、時間外手当を給与にプラスしなければなりません。残業代については知っていても、深夜10時を過ぎる労働には、残業代のほかに「深夜勤務手当」がつくといったことをご存じの方は少ないでしょう。時間外手当の種類や考え方、計算方法について解説します。
時間外手当の考え方
時間外手当とは、会社と労働者との契約のもと決められた所定労働時間や、法律で定められた法定労働時間を過ぎて働いたとき、超過時間分を割り増しで付与される手当金のことです。
例えば「9時から17時まで、休憩1時間」という契約で働いている場合、17時を過ぎる残業はもちろんのこと、「8時からの早出」「休憩時間なしで働く」「休日に出勤する」といった働き方をした場合には、超過した時間分の給与を割り増しでもらえます。
法定労働時間は「1日8時間、1週40時間」です。また、休日の最低基準は「毎週1回、または4週を通じて4日以上」です。会社が過半数組合(あるいは過半数代表者)と労使委協定を締結し、労働基準局に届け出た場合には、法定労働時間を超えて働かせることができますが、法定労働時間を超過した時間分(時間外労働)については、割増賃金を支払わなければなりません。
時間外労働の上限規制に注意
時間外労働については、青天井で認められているわけではありません。大企業に続き、中小企業についても、2020年4月から労使間の「時間外・休日労働に関する協定(36協定)」で定めることができる時間外労働時間に上限規制ができました。
休日労働を含まない時間外労働の上限は、原則として月45時間、年間360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることができません。臨時的な特別の事情があり、労使間の合意があっても、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働を合わせて月100時間未満、2~6か月平均80時間とする必要があります。
なお、原則である月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までなどといった法改正がなされました。詳しくは、厚労省による以下の資料をご参照ください。
時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
「時間外労働の上限規制 “お悩み解決” ハンドブック」
時間外労働の割増賃金率引き上げのポイント
2023年4月1日から、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。2023年3月31日までは、月60時間超の残業割増賃金率が大企業で50%、中小企業で25%です。しかし、4月1日からは、大企業、中小企業ともに50%となります。
ただし、月60時間を超える時間外労働を行った労働者に対しては、引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに、有給の代替休暇を付与することが認められています。休暇を取ってもらうことで、働き過ぎている労働者の健康を確保するという目的から、この方法を選んでも良いとされています。
中小企業の猶予適用が終了
実は、このたびの改正は、猶予期間が終了するだけです。大企業においては2010年から「50%」の義務が課せられていましたが、中小企業においては、13年の間、猶予措置がとられていました。
60時間を超える時間外労働への対価が、これまでの水準から25%も引き上げられることになるというのは、多くの中小企業にとってかなりの痛手でしょう。残業をなるべく行わない、効率の良い働き方について、ますます考えていかなければなりません。
中小企業に該当するのは、小売業であれば資本金の額または出資の総額が「5,000万円以下」か、常時使用する労働者数が「50人以下」の企業です。サービス業であれば「5,000万円以下」、あるいは「100人以下」となります。卸売業は「1億円以下」あるいは「100人以下」となり、その他の業種は「3億円以下」あるいは「300人以下」となります。事業所ごとではなく、企業単位で判断されます。
代替休暇制度を導入する場合の注意点
割増賃金ではなくそのぶんの有給休暇を取らせることも認められています。しかし、注意しなければならない点が2つあります。
1つめが、休暇に代替できるのは、あくまで割増賃金率の引き上げ分である25%の支払いに相当する部分であるという点です。「これを機に、残業代全てを有給休暇にしよう」といった施策はとれません。
もう1つは、代替休暇制度を導入するなら、必ず労使間での合意がなければならないという点です。過半数組合、あるいはそれがない場合は、過半数代表者との間で労使協定を結びます。
代替休暇の時間数の具体的な算定方法
代替休暇制度を導入する場合、例として、次のような算定方法になります。
代替休暇の時間数=(1ヶ月の法定時間外労働時間数-60)×0.25
また、代替休暇の単位は、まとまった単位で与えることで労働者の休息を確保するという観点から、1日あるいは半日の付与が望ましいとされています。例えば、10時間分の超過がある人が8時間(1日)の有給休暇を取得すると、2時間分が余ってしまいます。この2時間分は、「2時間だけ休ませる」よりも、「2時間分だけは金銭で支払う」ほうがよいということです。
さらに、代替休暇は60時間を超える残業をした翌月か、もしくは翌々月までに与えるべきとされています。これは、労働者の休息が目的であるためです。よって、「4月に5時間、5月に3時間の超過分がある」といったときには、6月にまとめて8時間(一日)の代替休暇を与えることができます。ただし、4月分の5時間を、7月にまで繰り越すことは、あまり良くありません。
参考:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます
改正労働基準法のポイント
時間外手当の種類
時間外手当は、「残業手当(時間外手当)」「深夜手当(深夜勤務手当)」「休日手当」 の3種類があります
残業手当
所定労働時間や法定労働時間を超えて残業した場合に支払われる手当です。基本的に「1時間当たりの賃金×残業時間×1.25以上(25%以上)」として計算されます。
※大企業では、残業時間が1ヶ月60時間を超過したら割増率は1.5倍となる。2023年4月1日からは、中小企業も同様となる。
- 法定労働時間の1日8時間・週40時間を超えたとき
割増率:25%以上
- 時間外労働が限度時間(1ヶ月45時間・年360時間等)を超えたとき
割増率:25%以上
- 法定労働時間の1ヶ月60時間を超えたとき
割増率:50%以上
※大企業の場合。中小企業は2023年4月1日から適用
深夜勤務手当
22時から翌朝5時までの間に勤務した場合に支払われる手当です。「1時間当たりの賃金×深夜勤務時間×1.25以上(25%以上)」が支給となります。
- 22時から翌朝5時までの間に勤務させたとき
割増率:25%以上
休日勤務手当
休日出勤の際に支払われる手当です。「1時間当たりの賃金×休日勤務時間×1.35以上(35%以上)」が支給されます。休日勤務の後、振替休日を設定して消化する会社もあります。
- 法定休日(週1日)に勤務させたとき
割増率:35%以上
参考:労働基準法 – 割増賃金編 「残業手当」 「休日手当」 「深夜手当」 | 厚生労働省
時間外手当の計算方法の例
時間外手当は、重複して支給されることがあります。時間外手当の計算方法を、例を通してみてみましょう。
例1:
【Aさんは毎日9時から18時まで、時給にして2000円で仕事をしている(休憩1時間)。ある日、突発的なトラブルがあり、終電ギリギリの23時まで働いた。】
この場合、Aさんの時間外手当は、次のような考え方で計算されます。
18時から22時までの4時間……残業手当(1.25倍)
22時から23時までの1時間……残業手当(1.25倍)+深夜勤務手当(1.25倍)=1.5倍
よって、この日のAさんの時間外手当は、
[2000(円)×1.25×4(時間)]+[2000(円)×1.5×1(時間)]=13,000円
となります。
なお、残業手当と深夜勤務手当の重複は、もともと深夜帯の仕事として契約したときにはありません。深夜勤務手当だけが適用されます。さらに休日出勤の場合、もしも22時~翌朝5時の仕事であったときには深夜手当と重複しますが、休日出勤は残業ではないため、残業手当とは重複しません。
さらに、前述したとおり、2023年4月以降は中小企業にも「月60時間を超える時間外手当は50%を付与する」とされます。この日のAさんの残業が、すでに月60時間を超えている場合、Aさんの時間外手当は、次のような考え方で計算されます。
18時から22時までの4時間……残業手当(1.5倍)
22時から23時までの1時間……残業手当(1.5倍)+深夜勤務手当(1.25倍)=1.75倍
よって、
[2000(円)×1.5×4(時間)]+[2000(円)×1.75×1(時間)]=15,500円
となります。
管理職の時間外手当はどうする?
労働基準法上の管理監督者である「管理職」になると、時間外手当の支給対象から外れます。そのぶん、役職手当をつけて管理職の処遇を守らなければなりません。でなければ、非管理職の給与が、管理職の給与を上回ってしまう逆転現象が起こる恐れがあります。
管理職に昇格すると、当然ながら責任の重さや範囲が広がります。それなのに毎月の手取り額が下がるということでは、誰も管理職を目指したがりません。とくに、これから会社の中核を担ってほしい若手社員が「管理職になりたくない」と実感するのは、会社にとって大きな損失です。
よって、役職手当を設定するときには、非管理職の給与を下回ってしまわないよう十分な配慮が必要です。具体的な設定方法については、以下の記事に詳しく紹介しています。
おわりに
時間外手当は、法律で割合の下限が決められている、必ず支給が必要な手当です。基本給に「みなし残業代」が組み込まれていたり、深夜までの残業や休日出勤が当たり前の会社だったりすると、計算が複雑になりがちです。ルーズにならないよう、しっかり管理しましょう。
働き方改革の一環として、長時間残業を見直している会社も多いことと思われます。この機会に、どのくらい時間外手当が支払われているかを見直し、無駄な残業を発生させないための効率的な働き方について考えてみましょう。
この記事を監修した人
代表取締役山元 浩二
経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である『【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版)を出版。累計14万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。
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