経営計画書の作り方10ステップ!A4用紙1枚だけで作成する方法
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経営計画書といえば、分厚い資料を思い浮かべる人もいるでしょう。「経営計画書は、たった1枚でいい」と聞いたら、「情報を一枚にまとめられるわけがない」という声が聞こえてきそうです。しかしその1枚が、あなたの会社の運命を変えるかもしれません。A4用紙1枚の経営計画書を、10のステップで作成する方法をご案内します。
経営計画書の3つの目的
会社は経営計画書を作成すべきとお話すると「こんな先が分からない時代に、将来の予測なんて立てられっこないよ」「どうせ計画を作っても狂ってくるんだから、つくらないほうがマシだ」といった反論があります。あなたも、もしかしたらそう思っているのではないでしょうか。
そこで、まずは経営計画書の必要性をお話しします。経営計画書をつくる目的は、以下の3つです。
会社の将来を社員と共有するため
私はクライアントの社員の方へヒアリングをすることがあります。すると管理職の方も含めて、会社の方向性を理解できている人はほんの1割程度です。すると当然、会社が目指すべき方向に向かっていく力は弱くなります。
その原因のひとつに、経営計画書が作成されていない、明文化されていないことが挙げられます。いくら社長が頭の中で将来のイメージを持ち、社員に日々伝えているつもりでも、「その思いの10%程度しか伝わっていない」ことをまずは自覚するべきです。
会社の発展のため
先行き不透明なこの時代だからこそ、将来を予測し、計画を練るのは大事なことです。目標になぜ達しないのか、その要因を明確にし、足りなかった部分を次の経営計画書に盛り込めば、やるべきことがハッキリします。
このような努力をするのとしないのとでは、会社の経営の安定度や発展性に差が出てくるでしょう。経営計画書を作成し、伝えていくことで、ビジョンの実現性は高まっていくはずです。
会社の価値を上げるため
経営計画書を作成したら、まずは社員に向けて発表することが大事ですが、できれば思いを共有する取引先にも渡します。ホームページや会社案内を通じて、顧客や地域の人にも伝わっていくでしょう。新入社員の採用時には、自社の理念や考えを伝えて、共感した人に入社してもらうようにしたいものです。
今後は、経営理念や会社の考え方が明確になっていない会社は、徐々に地域や社会に受け入れられなくなっていくでしょう。それを予感させるような不祥事が最近ではたくさん起こっています。会社の価値を上げるために、経営計画書が必要なのです。
経営計画書をA4用紙1枚で作成する10のステップ
経営計画書をA4用紙1枚にまとめるには、コツがいります。経営計画だけではなく、人材に対する考え方やビジョンも1枚にまとめることで、人材育成に有効な資料として活用できます。「経営計画書」と「人材育成計画」を1枚にまとめたシートを「ビジョン実現シート®」と銘打ち、次の10つのステップで作成を進めていきましょう。
ステップ1:経営理念を定める
経営計画書を作成するにあたり、まずは「経営理念」を定めます。経営理念の必要性については、さまざまな書籍で言い尽くされている感がありますし、多くの研修も行われています。しかし、経営理念を定めても、その活用に成功している企業はごくわずかであると感じています。
「経営理念」をつくる際は、他社の経営理念を数多く見た上で、自分の思いをできるだけ多く書き出すのがポイントです。そして、それをできるだけシンプルに表現した経営理念の案を作成し、「10年後も使える理念かどうか」を吟味して決定します。次の5つの手順に沿って考えてみてください。
- 手順1:他社の経営理念を数多く見る
- 手順2:社長の考えを書き出す
- 手順3:アウトプットした言葉をもとに3つの案を作成する
- 手順4:時間をおいて熟成・昇華させる
- 手順5:10年後も使えるかどうかを検証する
経営理念の具体的なつくり方や事例は下記の記事を参考にしてください。
ステップ2:5つの質問で基本方針を定める
経営理念をどういう方針、どういう方向性で実現していくのか、会社の基本となる姿勢や考え方を「基本方針」として定めます。
もし「具体的な言葉が出てこない」と感じたら、次の5つの質問に沿って基本方針を作成してみてください。すべての質問に答えたら、答えをつなげて一つの文章にしてみましょう。そして締めに、「それらを通じて『経営理念を実現する』という形にしてまとめストーリーを作ります。
質問①:商品(サービス)について
「どんなレベル・質の商品(サービス)を提供(開発)しますか?」
「商品(サービス)に対するこだわりは何ですか?」
「どんな商品(サービス)でお客様や世の中に貢献しますか?」
質問②:【お客様について】
「お客様に何を提供しますか?」
「どうやってお客様から支持されようと考えていますか?」
「お客様にどうなってほしいですか?」
「お客様とどんな関係になりたいですか?」
質問③:【社員に対して】
「社員にどうなってほしいですか?」
「社員に対してどんな機会や環境を提供しますか?」
「社員とどうなりたいですか?」
質問④:【会社について】
「どんな会社にしたいですか?」
「会社を運営していくにあたってのこだわりは何ですか?」
質問⑤:【地域・社会について】
「どのように地域や社会から認められる会社になりますか?」
「世の中、地域経済や日本、他諸国にどのように貢献ができますか?」
基本方針は会社の姿勢・考え方ですが、ただ表現するだけではありません。社員はこれに基づいて行動し、お客様や部下へ伝え、会社もホームページや採用活動を通じて地域の企業や人々へ伝えていくものです。それを念頭に、内容や表現を考えましょう。
詳しくは、以下の記事もご参照ください。
ステップ3:行動理念を定める
次に行動理念を作成します。経営理念の実現のため、社員にはどんな考え方でどう行動してほしいのかを明確にするのです。
社員たちは元々、仕事に対する考え方や関わり方、経験がバラバラです。しかし、組織をうまく運営していくためには、その社員たちが行う仕事のベクトルを一つに揃えなければなりません。そのための指針が、行動理念です。
行動理念は7~10項目ほど作成し、それぞれの表現を一文でまとめます。「基本方針」の実現に向けて「~するにはどう行動すればよいか」と、問いかけながら作成すると出てきやすいでしょう。何より、社員に行動してもらうためにつくるので、わかりやすい言葉で表現するのもポイントです。
行動理念の具体的なつくり方は以下の記事で解説しています。
ステップ4:人事理念を定める
人事理念は、会社の人材に対する根本的な考え方、スタンスを表現するものです。経営計画書を運用していくにあたって、根本的なエネルギー源になります。これまで考えてきた経営理念や基本方針、経営姿勢を実現するために、人材に対して会社はどのようなスタンスなのかを定めましょう。
「基本的な人材育成に対する考え方」「最終的に社員にどんな人材に育ってほしいのか」という2つの視点でキーワードをできるだけ多く書き出してみてください。その中から自社の理念の人材にぴったりあてはまるものに絞っていきます。
そうして洗い出したキーワードをできるだけシンプルにまとめてみてください。「自立型価値創造人材」や「一本の串に刺さった人材」など、社員に考え方が伝わるようにわかりやすい表現でまとめるのがポイントです。
人事理念については以下の記事もご参照ください。
ステップ5:「ビジョン」で10年後の会社を映像化する
4つの「理念」ができたら、目標を設定していきます。まずは「ビジョン」=「経営理念に到達する過程の会社の姿」を考えてみましょう。具体的には、5〜10年後の会社の将来像をできるだけハッキリと描けるように言語化していきます。
「ビジョン」は社長一人で考えず、リーダーと一緒に考えてみてください。リーダーたちの本音も引き出しながら話し合い、次の3つのステップに沿って練っていきます。
- 1.「ビジョン」を明確にする時期を定める
- 2.映像で見えるイメージを言葉にする
- 3.「ビジョン」としてまとめる(2の中から1〜5項目にまとめる)
社員がそれを目にしたときに、「こんな会社なら友達に自慢できる」「自社に勤めていることが誇りになる」「自社で働いていることを人に伝えたくなる」と実感でき、目指したくなる会社像にしましょう。
ステップ6:「10カ年事業計画」で「ビジョン」までのルートを数値で示す
事業計画の作り方については、これだけをテーマに何冊も本が出ていますから、ここでは省きます。私がアドバイスしたいのは、「10カ年事業計画」で「ビジョン」に到達するまでに業績を伸ばすための考え方です。3つのポイントをお話します。
1つめは、「売上」を「いくらにするか」ではなく、「どうやってつくっていくか」をわかるものすることです。具体的には、「商品」「顧客」「業種・業界」「エリア」「店舗」「営業所」などの区分ごとに売上をどう構成するかを考えていきます。いちばん力を入れる商品はどれか、もっとも成長の見込みがある顧客はどこかを決め、具体的に数値に落とし込んでみてください。
2つめは、未来にむけてどのような投資を行っていくかを明確にすることです。「ヒト・モノ」の中でどこに「カネ」を投資するのかなど、将来の成長に必要な投資を明示します。具体的には、「育成投資」「採用投資(ヒト)」「開発投資」「設備投資」「IT投資」「広告投資(モノ)」などを考えていきます。経理上の科目分類にこだわらず、何にどれだけ投資するのかを社員にわかるようにしてください。
3つめは、社員(パート・アルバイト)をどのように採用・配置していくかを計画することです。具体的には、「人員計画」を作成します。人員計画は、年度ごとの採用と各部署の人員構成を明確にしたものです。先に作成した売上計画を実現するためには何人採用して部署の配属をどうする必要があるかを考え、人員計画に落とし込んでいきます。
これら3点を「10カ年事業計画」に盛り込むことによって、「ビジョン」実現に向かうプロセスを社員に明示するのです。
人員計画の作り方は以下の記事も参考にしてください。
ステップ7:「戦略」で「ビジョン」実現の手段・手法を具体化する
「10カ年事業計画」で「ビジョン」までの業績目標を明確にしたら、次はどうやってこの業績を達成するのか、その手段・手法を考えていきます。これが「戦略」にあたります。
具体的には、1〜3年先の業績目標をもっとも効果的に達成するための「打ち手」を「戦略」として明確にします。「戦略」がしっかり立案・実行できていないと「ビジョン」への到達が遠のいてしまうので、「戦略」の立案・実行・進捗管理は非常に重要です。
実は中小企業の「戦略」は共通していることが多く、私がコンサルティングをしてきた約450社が成果を上げた戦略は、業績や業態、地域などに関わらず、結果として半分以上が同じものでした。ここではその経験を元にまとめた6つの戦略をご紹介します。
- (1)顧客戦略
【戦略例】
顧客情報管理・活用の仕組みづくり
顧客育成の仕組みづくり - (2)営業戦略
【戦略例】
営業プロセスの標準化
営業ツールの整備
販促・プロモーションの推進 - (3)営業戦略
【戦略例】
人事評価制度の導入・運用
要員計画に基づいた戦略的採用
幹部・リーダーの計画的育成 - (4)組織戦略
【戦略例】
会議・コミュニケーションツールの整備
マニュアル・手順書の整備 - (5)IT戦略
【戦略例】
ホームページ・SNSの活用
社内システムの整備 - (6)商品戦略
【戦略例】
商品企画・開発プロジェクト
商品ランク分類
生産計画と実行
6つの戦略の詳細は拙著『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』で紹介していますので、ぜひあわせてお読みください。
小さな会社は経営計画で人を育てなさい
ステップ8:「現状の人材レベル」で課題をつかむ
ここからが一般的な経営計画書とは違って「ビジョン実現シート®」を通じて人材育成を促すためのオリジナルノウハウです。この部分まで踏み込んだ経営計画書は、他にないでしょう。
現在の社員の「弱み・課題・問題点」と「強み・長所」を社長と幹部、リーダーで出し合います。それが「現状の人材レベル」です。具体的には、集まったメンバーそれぞれが考えたものを一覧にし、同じ内容のものを整理・統合していきます。このとき、「実務面」と「意識面」、「強み」と「課題」でマトリックス(2つ以上の要素をかけ合わせた表)を作成にして一覧にするのがおすすめです。
多くの中小企業で「一生懸命」「まじめ」という「強み」が出てきますが、なぜこのような社員が多いにもかかわらず、課題が山積しているのでしょうか?それは会社が成長に結びつく教育をしてこなかったからです。役割や具体的な目標を与えれば、一生懸命でまじめに取り組んでくれるので、成長する社員が増えていくでしょう。
「我が社の人材育成は課題ばかり」と嘆く社長もいるかもしれませんが、そのぶん伸びしろが多いということだと、考え方を切り替えましょう。
ステップ9:10年後の社員人材像を具体化する
次に10年後の人材像を設定します。「10カ年事業計画」と「ビジョン」を実現するには、どんなレベルの社員に成長してもらう必要があるのかを明確にするのです。「現状レベルの問題点を解決するにはどんなスキルが必要か」という視点で考えるのがいいでしょう。
これまで作成してきた「10カ年事業計画」「ビジョン」「戦略」「現状の人材レベル」を見ながら、短い単語でいいので必要となるスキルや知識などを書き出してみてください。書き出した単語を近い要素ごとにグループ分けし、グループごとの単語をつなげて文章にしてみましょう。
人材のレベルイメージを伝えるために文末は「〜人材」という表現にし、「得た情報を仕事に活用できる人材」など、求めるスキルごとにシンプルな一文で構成するとわかりやすいでしょう。
社員に求める項目は多すぎると覚えきれず、どれも中途半端になる恐れがあります。リーダーに向けては3〜5項目、全社員に向けては5〜10項目程度にまとめるのが理想です。
ステップ10:ギャップを埋めるための課題を書き出す
現状の人材レベルと、10年後の社員人材像のギャップを埋めるために、何をやれば良いのかを明確化します。ギャップを埋めるための必要な課題は、評価基準や社員教育に落とし込んで成長支援を行っていくため、できるだけ必要なスキルや役割を”具体的に”表現しておきましょう。
また、一般職と管理職は別々に求めるスキルを明確化しておきます。それぞれに求めるスキルレベルが違う可能性があるためです。課題がクリアできれば現状の人材レベルが上がっている可能性があるので、毎年、確認・チェックを行って解決・解消できた項目を消し込んでいき、新たな課題ができれば追加して理想の人材を追求していきしょう。
「ビジョン実現型経営計画®」で得られる3つの効果
ビジョンをとことん追求し、実現A4用紙1枚の経営計画書を作成すると、以下の3つの効果が得られます。いずれも、中小企業の社長が「足りない」「ほしい」と感じていることではないでしょうか。
社長・リーダーの実力を高めることができる
経営計画をその通りに運用するためには、社長やリーダーに対してそれなりのスキルと経験が求められます。机上では経営計画を理解できても、運用経験がなかったら、それを現場で体現しようとしても思い通りに行かない場合が多いでしょう。
よって最初はうまくいかないかもしれません。しかし、現場の人たちが実践のための能力を身につけるには、ある程度の時間がかかって当然です。
1年や2年で諦めないでください。あのトヨタ自動車でさえ、30年継続して取り組むことで「カイゼン」のスキルと成果を確立したといわれています。覚悟をもって、3年、5年と継続することで確実に社長とリーダー、そして会社の実力を高めることができます。
経営計画どおりに会社を成長させることができる
実行を諦めることなく継続していくことさえできれば、1社の例外もなく経営計画通りに会社を経営することができるようになります。もう少し正確に言うと、経営計画で描いたものに近い形で会社を経営できるようになります。
もちろん、私自身も創業以来自社を経営計画に沿って運営しています。私の場合、当初立てた経営計画より2,3年遅れて目標を実現することができました。私の実力からすれば、こんなものでしょう。
私のクライアントのなかでは経営計画の数値計画を前倒しで達成し成長している会社が5%あります。また、ほぼ経営計画通りのペースで成長している会社が10%、あとの85%は経営計画の数値目標達成が当初計画より遅れています。
かなりの会社が計画を進められない理由として、前項で挙げた事柄があります。そう、社長やリーダーがまだ育ち切れていないからこそ、運用がうまくいかないのです。しかし、経営計画を長く運用する間に、確実にリーダーは成長していきます。それに合わせたかたちで、会社も成長することができるのです。
会社に “自動成長装置”を組み込むことができる
一度経営計画に沿った経営ができるようになると、少々のことでは揺るがない強い組織作りが実現できます。リーダーが自ら将来のビジョンを語り、成長計画を立て、戦略を練って社長に提案し、部下を導けるようになっていきます。
このように、リーダーや社員が「勝手に」成長していく“自動成長装置”が会社に備わります。実際、私は多くのクライアントでこのような劇的な変化を体験しました。その変化は時間をかけながら徐々に現れてくるのですが、取り組む前後では、その違いは歴然としています。
なかには、社長があの手この手で時間と労力をかけて変えようとしても変わらなかった受け身型リーダーが、自発的リーダーへとまるっきり変貌した例もありました。それは、実際に現場でそのプロセスに関わってきた私自身が信じられないくらいの変化でした。
人は変われます。そして、その出発点が経営計画なのです。
経営計画書が実現されない本当のワケ
なかには、「もちろん経営計画書は毎年作っているよ。しかし作っても実現しない。経営計画書なんて、絵に描いた餅だ」とおっしゃる経営者の方もいるかもしれません。なぜ経営計画書が実現されないのか、本当の理由にお気づきでしょうか。
本来、会社の仕事にはビジネスヒエラルキーがあります。まずは会社の「理念」を明確にし、「理念」を実現するための「目標」を立てて、「目標」を達成するための「戦略」を立案し、「戦略」を実現させるために「計画」を練り、「計画」が滞りなく行われるための「管理」のルールを決めて、現場はただひたすら「業務」に邁進する。これが会社のあるべき姿です。
言い換えれば、会社でこの6種類の仕事が一貫して流れていないと、決して継続的な業績向上にはつながりません。しかし、多くの会社で仕事の流れはしばしば逆流します。「現場でトラブルが起こったから計画を見直そう」「人が辞めたから目標や戦略を見直そう」など。思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
さらに致命的なのは、「理念」や「目標」「戦略」が存在しないまま、「計画」や「管理」の部分だけを先に作り、実行してしまうことです。「計画」のもととなる部分がスッポリ抜けているため、軸となる考え方がなく、何かトラブルが起これば簡単に計画倒れとなってしまいます。
「ビジョン実現型経営計画®」の手法を使えば、「理念」から「業務」まで全てに関わる制度を作ることができ、コントロールしながら組織を正しく機能させていくことができます。ぜひ継続して運用に取り組み、大きな成果を実感してください。
経営計画で人材育成に成功した事例
ここで、ビジョン実現型の経営計画を導入し、人材育成に成功した事例として2社のエピソードをご紹介します。いずれも中小企業ですが、業界は全く違います。しかし2社とも確実に成長を遂げています。ぜひ、参考にしてください。
事例1:社長の”ホラ”がみんなの”ビジョン”に
関東地方でリサイクルショップを展開するA社では、2009年、1店舗のスタッフがほぼ全員、10名もいきなり退職してしまうという事態が起こりました。「会社は、俺たちのことを見てくれない」と不満をあらわにし、去って行ってしまった社員の背中を見て、当時マネージャーだったB社長は会社を根本から変えていく決心をしました。
B社長は会社をより良くするために学び、情報収集に奔走するなかで、「会社を1つにまとめるためには理念が必要だ」と確信しました。10人のスタッフとは、理念が共有できていなかったことに気づき、理念共有型の会社づくりがスタートします。
そんななか、B社長は私の「ビジョン実現型経営計画®」を知り、クライアント契約します。手順に沿って経営計画を作成し、経営計画発表会を行いました。「全国ナンバーワン」「リユースサービスを通じてお客様に幸せを」「2030年、50店舗」といった理念と計画を、全社員に向けて力説したのです。
社長の熱意とは裏腹に、経営計画発表会の反応は冷たいものでした。「全国ナンバーワンなんて社長のホラにつきあっていられない」「机上の空論を現場に持ち込んでもうまくいかない」といった社員の厳しい言葉が聞こえてきました。
しかし、B社長は決して諦めませんでした。これらの反応を「逆にやりがいがある」ととらえ、「アクションプラン」と「評価制度」のPDCAを徹底していきました。そして運用のなかで幾度となく「会社がスタッフ全員をきちんと見ているよ」と伝え続けました。
さらに「この改革の目的は、スタッフ全員の幸せの実現」「そのためには、経営計画の達成が必須」としっかり伝え続けたところ、現場のスタッフから「自分の仕事ぶりが評価されて嬉しい」「自分の頑張りを店長が見てくれるようになった」という声が聞こえてきたのです。
こうしたスタッフたちの変化や成長を目の当たりにした店長たちも、当初反発していた状態から徐々にその効果を認め、真剣に改革プロジェクトに取り組むようになっていきました。結果、社長の「ホラ」が、だんだんみんなのビジョンになっていきました。
経営計画の確実な運用によって、リーダーと部下双方の成長スピードが速まり、スタッフ全員を巻き込みながらPDCAを回してきたA社。気づけば、最初は「ホラ」だとされた社長のビジョンに、あと一歩で届きそうなところにきています。
事例2:どんな業界でも成果につながる経営計画の仕組み
ヘアサロンを2店舗展開するC社。D社長は、顧客、人材ともに奪い合いで競争が激しい美容業界で、改革の必要性を感じていました。C社の「ビジョン実現型経営計画®」への取り組みは、2017年4月に私が主催する「ビジョン経営実践塾」という勉強会にD社長が参加したことから始まります。
D社長は、なんと経営計画を導入、運用してから1年足らずで2店舗の対前年比売上を7カ月連続で更新し続けることに成功しました。
なぜこんなに短期間で結果を出すことができたのでしょうか。その要因は3つあります。1つめは、D社長の思いきった導入と運用の進め方です。2つめは、自社にマッチしたものに改善をしたことであり、3つめはD社長自身がプロジェクトメンバーの中心となって推進やとりまとめを行っていることです。
一つめの要因について解説しましょう。「ビジョン実現型経営計画®」では、経営計画を作成した後にまず評価制度の運用サイクルを回し、これがある程度慣れてきたところで会社のアクションプランを作成して運用するのが一般的です。その後、個人アクションプランを作成し、回していくようになります。しかし、D社長はこの3つのサイクルを制度導入時から同時に回し始めたのです。
中小企業のリーダーはPDCAを回すのに慣れていないことが多く、かつ多忙なため一気に運用しようとすると不満がで得る場合があります。しかし、C社の場合はD社長が自ら3つのサイクルに取り組むことで、早期の爆発的な成長を可能にしました。
また、改革前からD社長自身がスタッフ一人一人と密度の高いコミュニケーションをとっていたことも、スピーディな改革につながりました。以前からD社長はスタッフと毎月1回個別に面談を行い、会社に対する意見や不満を吸い上げていました。それぞれのスタッフの正確や特性をあらかじめ把握していたことで、通常の中小企業では高いハードルとなるようなことも乗り越えることができたのです。
2つめの要因について。C社は私たちのコンサルティングをそのまま導入、活用するのではなく、D社長が仕組みやフォーマット、運用方法などの改善案をどしどし提案して推進していったことです。自社にマッチしたものに変更したことでスタッフが活用しやすくなり、当初からみんなが前向きに取り組んでくれました。
C社は例えば「人事制度」や「評価」といった言葉を使わないという独自の工夫を行っています。用語特有の固い印象が、女性中心のスタッフへ本来の目的や経営者の思いが伝わらないだろうと考えたからです。例えば評価基準は「キャリアアッププログラム」、評価者は「成長サポーター」とするなど。採用の場でもあえて柔らかい言葉を使い、優秀なスタッフを多数獲得しています。
3つめの要因について。C社では、D社長自身がプロジェクトの中心メンバーであるリーダーとなって改革を推進しています。そしてすべて社長自身の言葉で直接スタッフに丁寧に説明を繰り返していきました。きめ細やかな社長の対応が信頼につながり、スタッフが素直に自分たちの役割に取り組んでくれるようになりました。
このように、不況といわれている美容業界であっても、経営計画に沿って正しい手順で経営を行っていけば、必ず成果に結びつくことをC社の事例は教えてくれます。C社は経営計画にも盛り込んだ店舗のリニューアルを行ったばかりで、これをきっかけとしてさらに成長に弾みがつくことでしょう。
おわりに:経営計画書は人材育成と連動させて考えるのが吉
以上のような「ビジョン実現シート®」をつくることで、社員が経営計画書の内容をしっかり理解し、人材育成戦略に沿って行動してくれるようになります。すると、計画内容を着実に実行することにつながり、「机上の空論」と捉えられがちな経営計画書が、実体を伴ったものになることでしょう。
経営計画書を作成する際には、ぜひビジョン実現シート®をご活用ください。そして、できあがったビジョン実現シート®と連動させる形で人事評価制度を作成すれば、さらに人材と会社の成長速度はアップします。経営計画と人事評価制度を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」については、以下の記事をご参照ください。
この記事を監修した人
代表取締役山元 浩二
経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である『【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版)を出版。累計14万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。
日本人事経営研究室は仕事創造型人材を育て、成長し続ける強い企業づくりをサポートします
私たち日本人事経営研究室は、"人間成長支援"をミッションとし、
中小企業の持続的成長をサポートしています。
「人材」ではなく「人間」としているのには、こだわりがあります。
それは、会社の中で仕事ができる「人材」ではなく、仕事を通じて地域や環境、社会に貢献できる「人間」を育てる事を目指しているからです。
日本人事経営研究室では、そのために必要な「人」に関するサービスや情報を提供しています。