中小企業が「戦略」で成長できない”本質”、戦略実行に有効な2つの仕組みを解説
企業が成長するためには、確固たる成長戦略が必要です。しかし、中小企業の戦略はなかなか成長につながらないという特徴があります。それはなぜなのでしょうか?この記事では、中小企業が戦略を立てても成長できない本質について解説したのち、戦略実行に有効な2つの仕組みをご紹介します。
そもそも、なんのために戦略を立案するのか?
まずは何のために戦略を立案するのか、その目的を改めて考えてみましょう。次のA、Bのうち、戦略立案の目的はどちらだと思われますか?
- A:業績につながる効果的な戦略を立案すること
- B:作った戦略を実行し、目標の達成を果たすこと
もちろん、答えは「B」です。ところが、私の実体験では「A」を目的として戦略に取り組んでいるとしか思えない中小企業が非常に多いと感じています。
「戦略のセオリー、市場で通用するための考え方がよく分かった」「成果につながる立派な戦略ができたので業績アップは間違いない」などとおっしゃる中小企業の社長は非常に多いです。しかしこれは言い換えると、戦略の考え方や立案方法を理解したところまで、戦略を作ったところまでで満足していると捉えることができます。
当然ですが、成果を出すためには戦略を実行しなければなりません。どんなに優れた戦略が立案できても、実行できなければ成果は「0」です。別の言い方をすれば、仮に戦略の方向性が少々間違っていても、きちんとしたプロセスを踏んで実行すれば軌道修正しながら成果をめざすことができます。
戦略の「立案」と「実行」の重要度を数値で示すと、2:8で「実行」のほうが重要です。私自身が戦略の立案・実行を20年以上支援してきた実体験からも、実行のほうが重要かつ難易度が高いといえます。
中小企業の戦略が成果につながらない3つの原因
ではいったいなぜ、せっかく立案した戦略が成果につながらないのでしょうか?
コンサルティングを始めた20年以上前、知識も経験も乏しかった当時の私には、その理由が分かりませんでした。なぜなら、原因は表に出てこない部分にあったためです。現象として目には見えないところに、解決すべき大きな問題と構造が隠れています。
戦略が成果につながらない最大の原因は、実は戦略そのものにはありません。戦略が失敗に終わる原因は、以下の3つです。
原因1:戦略で成果を出すポイントを間違っている
「効果的な戦略が立案できれば成果につながる」と考えてしまうと、本来成果につなげるために必要な「実行」がおろそかになってしまいます。実行が重要だとわかっていても、立案だけでも時間と労力がかかるため、中小企業が陥ってしまいがちな間違いです。
「立案できた、これで大丈夫」と安心してはいけません。立案で安心しきってしまうと、戦略は失敗に終わってしまいます。何度も言いますが、実行するほうが大事なのです。
原因2:戦略を成果に導く体制が整っていない
中小企業には、戦略の推進担当者がいない場合がほとんどです。多くの中小企業では、戦略を学び立案するという役割を社長自身、または一部の経営幹部のみが担っています。実行面についても同様です。これが、戦略実行の大きな障害となります。
中小企業の社長や幹部は、プレイング経営者です。社長が一番実績を上げる営業パーソンであり技術開発責任者、かつ現場責任者でもあるという中小企業は珍しくありません。中核を担いながら戦略の実行、推進管理に力を入れようとしても、物理的、精神的に余裕がないと中途半端になります。その結果、戦略を通じて成果を出すところまでたどり着けないのです。
また、世の中の戦略に関するコンサルティングや教育サービスには、大企業向けのものがほとんどです。経営企画室や戦略推進室などの部署がある前提で、戦略立案のノウハウだけを教えています。大企業は自社内で実行できる体制が整っていれば、コンサルに依頼して戦略の立案さえできればいいので、中小企業とは環境が大きく異なります。
中小企業がコンサルティングを導入するとなると、大企業の幹部や戦略担当者が学んでいる物と同じサービスを利用するしかありませんが、当然そこでは戦略実行の重要性や推進方法を教えてくれません。よって中小企業の戦略実行力は高まらないのです。
原因3:戦略のゴールを定めないまま取り組んでいる
戦略は、企業の成長目標を達成するための打ち手です。よって戦略の立案に取りかかる前に、「目標」すなわち「ゴール」を定めなければなりません。戦略のゴールがあいまいなまま戦略に取り組んでしまうことが、戦略が成果につながらない3つめの理由です。
さらに、目標にも目的があります。それは、「理念」の具現化です。企業は目標を達成することでより多くの顧客や社会から支持され、貢献度と価値を高め発展していかなければなりません。自社の存在意義と社会への貢献の方向性を定めたものが理念です。
したがって、戦略を立案・実行する前に、「理念」と「目標」の2つを明確にしておくことが必要なのです。「理念」と「目標」なくしては、戦略の実行はおろか、立案もままならないと考えてよいでしょう。
経営理念の解説や作り方はこちらの記事で詳しく紹介しています。
戦略は2つの仕組みで実行する
では、ここからは戦略の実行の仕組みをご紹介しましょう。
戦略は「アクションプラン」と「評価制度」の2つの仕組みで実行することをおすすめします。「アクションプラン」は戦略を直接推進していくための実行計画、「評価制度」は戦略を実行し、成果を出せる社員を育成していくための仕組みです。この2つの仕組みができれば、戦略の実行を無理なくリーダーに任せることができます。
アクションプラン
アクションプランは、リーダーたちが戦略のPDCAを回しながら成果へと導いていく仕組みです。アクションプランを導入することで、戦略の初心者であるリーダーを、戦略上級者へ成長させることができます。
たとえば、「顧客情報の管理と活用の仕組みづくり」という「戦略」を進める場合、以下のような手順で進めます。
- 「いつまでに」「どのようにして」顧客管理のフォーマットを決め、
- 「誰が」それを作成し、
- 「いつ、どのような場で」営業社員に説明し、
- 「いつ」から実行するのかを決める。
これらの実行項目と内容、推進手順をスケジュール化するのが「アクションプラン」です。
アクションプランの作り方や運用の仕方については、ここで解説すると長くなるので以下の記事をご参考ください。
評価制度
戦略はリーダーだけで実行することはできません。リーダーは戦略に沿って自部門のメンバー全員に役割を落とし込み、これを実行してもらうことで部門全体の目標を達成します。このプロセスを担うのが「評価制度」です。
評価制度をつくるためには、まず「経営計画」を落とし込んだ「評価基準」を作成します。そして評価制度の運用プロセスを通じて、リーダーが部下を「評価基準」で求められる役割を実行できる人材へ導いていきます。
評価制度の作成方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。ポイントは、会社の理念やビジョンをはっきりさせることから始める点です。揺るぎない会社の姿勢が定まっていると、それを実行するのに適した人材を育て上げるための評価制度を作成することが可能になります。
「アクションプラン」「評価制度」、この2つの仕組みに取り組むことで、リーダーが戦略を推進しながら部下全員を会社が求める方向性に育成することができるようになります。これが、中小企業のリーダーに不足している「部門マネジメント力」と「部下指導育成力」を養うことにつながるのです。
おわりに
戦略を着実に運用していくことで人材が育ち、結果、会社の成長につながります。会社の成長は、人材の成長がなくては実現しません。うまくいかない場合は戦略の方を微調整しながら、運用のPDCAを回していきましょう。
「肝心の『戦略』の作り方をよく知りたい」という方へ。戦略は、1からつくる必要はありません。自著『小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方』にて、中小企業でそのまま使える20の戦略メニューをご用意しています。20の戦略から選んで実行するだけですので、ハードルがぐっと下がります。ぜひお手にとってお読みください。