2つの顧客戦略(顧客情報管理・顧客育成)の仕組みづくりの方法を解説
顧客戦略では、「顧客情報管理・活用の仕組みづくり」と「顧客育成の仕組みづくり」の2つを立案・実行していきます。顧客育成では、営業社員に任せきりにせず、会社ぐるみで顧客育成戦略に取り組み、顧客を“超お得意さん”に育てます。社員が総出で取り組むのですから、仕組みづくりがとても重要です。 “超お得意さん”が確実に増えれば、自社にさまざまな利益がもたらされます。
顧客情報管理・活用の仕組みづくり
私は、中小企業で戦略立案を支援する際に、社長に3つの質問をします。
- 1.あなたの会社では、「すべての顧客」を一元管理できていますか?
- 2.あなたの会社では、営業など顧客と接点を持った人が得た情報やデータをきちんと記録分析し、有効活用できていますか?
- 3.あなたの会社では、重要度、あるいは緊急性の高い顧客情報がスピーディーに社長まで届いていますか?
1の質問の「一元管理」は、情報を1カ所に集めて管理し、活用できる状態を指します。
私がこれまでに関わってきた約680社の中小企業のうち、3つの質問にイエスと答えることができた社長は3%未満でした。すべての企業活動は顧客づくりのために行わるものであり、会社は存続顧客させるには顧客に選ばれ続けなければいけません。
上記3つの質問にすべてイエスと答えることができない会社は、財産を有効活用せず放置しているもったいない状態です。逆に言えば、中小企業はこの顧客戦略に取り組み、顧客情報という眠っていた資産を掘り起こし、有効活用することができれば、生産性を大きく向上させることができるでしょう。
顧客情報管理は4つの項目を決めて推進する
顧客情報管理の戦略では、次の4つの項目を決めて推進していきましょう。
- 1.顧客情報を一元管理するためのツールを決める
- 2.どんな顧客情報を収集すればよいのか項目を決める
- 3.顧客情報の管理方法を決める
- 4.顧客情報の共有、活用のルールを決める
1.顧客情報を一元管理するためのツールを決める
最初に取り組むべきは、顧客情報やデータを記録・管理するためのツールの選定です。
中小企業におすすめしたいツールはExcel(エクセル)です。「Excelならすでに使っているけど、、、」という会社も多いことでしょう。
「顧客管理」のキーワードで検索すると、クラウドツールやソフトなどが無数にヒットし、どれも効果的に見えて選ぶのに迷ってしまうかと思います。しかし、それぞれのツールやソフトの機能や管理方法を調査し、検討するのに膨大な時間と労力を消費してしまう、あるいは、導入しても自社に合わずに結局は使わなくなってしまう、といったケースもよく耳にします。
Excelでも関数やマクロを活用すれば、顧客管理に必要なデータ収集や分析を十分に行なえます。本格的なシステムへの移行する場合でも、Excelからデータを移行できる場合も多いので、まずはExcelで顧客管理をしてみてください。
2.どんな顧客情報を収集すればよいのか項目を決める
次に行うのは、どんな顧客情報を収集・記録すればよいのか、その項目を決めることです。
この項目を決める会議には、社長も参加し、リーダーと一緒に検討してください。経営や
会社の方向性の判断に必要な情報項目は、社長からしか出てこない場合があるからです。
営業担当者や接客担当者、問い合わせ対応に携わっている現場の社員からの意見も参考にしながら決めていきましょう。そうして決まった項目は、1で決めたツールに入力し、フォームを作成していってください。
3.顧客情報の管理方法を決める
1、2のステップで顧客情報を収集するためのフォームが決まりました。このステップでは、「誰が」「いつ」入力をして、「どこで」保存するかを決めます。
「誰が」については、営業担当者が入力するのか、営業事務などを担当者とするのか、それとも全社員が入力するのかといったルールを決めます。
「いつ」については、顧客情報が得られた時点で即入力するのか、毎日1回や週1回入力する時間を決めて入力するのかなど、どういうタイミングで情報を更新していくのかというルールを決めます。
「どこで」については、Excelの顧客ファイルを社内のサーバーに入力するのか、クラウド上で
管理するのかなど、顧客データの管理の場所とその方法を決めます。
4.顧客情報の共有、活用のルールを決める
収集、蓄積した顧客データを効果的に活用するには、担当者だけでなく、上司や社長、関連部署の社員と共有し、売上アップや新商品販売につながるアイデアを出していきましょう。そのためには、「いつ」「誰が」顧客情報を見て、「誰と」「どうやって」共有するのか、ルールを明確にする必要があります。
たとえば、以下のようなルールを決めて実行することで顧客情報は活きたものになってくるはずです。
- 営業社員が自ら更新した顧客情報を社長や営業部長、商品企画部全員に知らせる。
- 情報共有してほしいリーダーや部署の社員から顧客管理データへ週1回必ずアクセスし、確認したうえで活用のアドバイスについてコメントを入れる。
- 営業企画会議で、得られた情報の有効な活用方法をテーマにする時間を設け、実行することを決める。
顧客育成の仕組みづくり
「顧客育成」とは、取引が始まったばかりの顧客や一般的な顧客を“超お得意さん”に育てていくことです。この戦略を推進することで、全顧客に対する“超お得意さん”の比率を増やしていきます。
“超お得意さん”が多い状態を作り出すことで2つの効果がもたらされます。1つめは自社に対しての効果、もう1つは社外に対しての効果です。
効果1:直接、利益に貢献してもらえる
“超お得意さん”は自社商品やサービスの大ファンです。その利用頻度が通常の顧客より高く、新しい商品を開発すればすぐに購入してくれます。よって“超お得意さん”の比率が高い方が、自社の売り上げや利益は確実に高まります。
とくに新商品開発にあたっては、どれほどの売り上げが見込めるかを数値化するのが難しい傾向にありますが、“超お得意さん”が買ってくれるという期待が持てるので、開発のハードルが下がるでしょう。会社として新しいことにチャレンジしていけます。
効果2:自社の存在を世間に広めてもらえる
“超お得意さん”は、自社が提供している価値や理念に共感してくれる顧客です。自社の考え方やサービスを、社外に広めてくれます。その結果、顧客を紹介してくれるなど、自社の利益に貢献する行動をとってくれるのです。
今はSNS全盛の時代です。もしも、つながっている人がたくさんいる“超お得意さん”が、ネット上で自社のサービスなどについて好意的な発信をしてくれたら、不特定多数の人に自社の存在がプラスのイメージつきで知れ渡ることになります。
口コミの力は強いものです。自社の営業社員が個人で奮闘するよりも、たくさんの“超お得意さん”が無意識に自社をアピールしてくれた方が、大きな効果を得ることができるでしょう。
顧客育成の仕組みづくりを実現する2つの手順
顧客育成の仕組みづくりに取り組み、顧客との関係性を強固にすることで、圧倒的ファンの増大と収益の向上を実現させましょう。手順は、たったの2つです。
自著「小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方」からその方法をご紹介します。書籍でお読みいただくと、より理解が深まるので、ぜひお手に取ってご覧ください。
手順1:顧客をランク分類
現在取引がある、あるいは過去取引があったすべての既存客に対して指針を決め、順位づけを行います。ここでいう順位とは、“超お得意さん”から“自社を利用したことがあるだけ”の顧客までの順位のことです。指標の事例を、具体的にご紹介しましょう。
【法人対象のビジネスの場合】
粗利益額/売上高/自社商品の取引点数/受注頻度/自社シェア/売上拡大余地
【個人対象のビジネスの場合】
購買金額/購買頻度/顧客紹介人数/重点商品購入額/自社イベント参加回数
これらを参考にし、自社が重要視する指数を2つ決めましょう。そのうえで2つの指標を掛け合わせて顧客ランクを分類し、優先順位を決めます。
3つ以上の指標を使うこともできますが、顧客ランクを立体的に把握する必要性が生じ、かなり複雑になります。まずは、もっとも優先すべき指標を2つ決めましょう。
指標を決めるポイント
指標を決めるポイントは、「自社に一番貢献してくれているお得意さんはどんな会社(人)か」という考え方です。売り上げが高い顧客の貢献度が大きいのか、粗利益額が高い方が良いのか。はたまた自社の商品をより多く買っている人か、いつも顧客を紹介してくれる人か。
どんな顧客の貢献度が高いかは、会社によって違います。ぜひ経営陣や営業社員と話し合ってみてください。
「顧客ランクマトリクス」の事例
2つ指標を決めたら、各指標の基準となる数値を横軸と縦軸に配置し、マトリクス図を作ります。これを「顧客ランクマトリクス」といいます。
小売店で「購入金額」と「購買頻度」の2つを指標としてランク分けした場合の、顧客ランクマトリクスを例示します。
この小売店では基準期間を3ヶ月とし、「購買金額」については10万円以上をAランク、3万円以上10万円未満をBランク、3万円未満をCランクと、3段階に分けました。
「購買頻度」は、7回以上をaランク、3~6回をbランク、1~2回をcランクとしました。このランク設定で2軸を掛け合わせると、9つのマスに分類できます。
9つのマスの中で、一番右上「Aa」のマスに該当する顧客が「一番のお得意様」「超VIP客」です。左下「Cc」のマスに入った顧客が、これから関係性を深めていく必要がある顧客となります。
他のマスにあたる顧客についても、上もしくは右のマスを上位とみなし、ランクアップさせていくことが、より自社に大きな利益をもたらしてくれる顧客に育成できたことにつながります。継続的にランクアップする顧客が増えるよう仕向けていくことを「顧客育成」といいます。
手順2:顧客コミュニケーションづくりと実践
顧客コミュニケーションルールを確立できれば、頼りになる営業社員10人分と同等の効果が得られます。しかし、これを実行できている中小企業はごくわずかです。
この仕組みは、先ほどの「1:顧客をランク分類」で決めた顧客ランクに応じて間接的なアプローチを実施し、顧客ランクをアップさせるものです。小売店の場合で、実例を挙げてみましょう。
- ①お客様感謝イベントや招待旅行へのご招待
- ②お誕生日プレゼント
- ③取引内容によるプレゼント
- ④お得意様向け特典(先行商品情報の提供、限定セール、展示会への招待など)
- ⑤ニュースレターの送付
- ⑥DM
- ⑦メルマガ
訪問や電話ではなく顧客と接点を持つ方法を、間接アプローチと呼びます。間接アプローチは、直接顧客を担当している営業以外の社員で役割分担をして実行することができます。
コミュニケーションのリストアップ
自社の顧客に対して効果があると考えられる間接アプローチの方法、コミュニケーションをリストアップしてみましょう。コミュニケーションをリストアップするときのポイントは、営業的な内容以外のものを挙げることです。
コミュニケーションの目的は、商品やサービスを直接売り込むことではありません。顧客との接触頻度を増やすことであなたの会社を身近に感じてもらい、何かあったとき、困ったとき、一番にあなたの会社を思い出してもらうことです。
こうした考え方を共有した上で、営業社員だけではなく若手や女性社員にも参加してもらい、意見を出し合いましょう。きっと良いアイデアが出てきます。
「顧客コミュニケーション実行表」の作成
コミュニケーションをリストアップできたら、「顧客コミュニケーション実行表」を作成します。各顧客ランクにどのコミュニケーションをどういうタイミングで行うのか、それぞれのコミュニケーションの担当者は誰なのかを決めることができます。
「顧客コミュニケーション実行表」の実行
「顧客コミュニケーション実行表」が完成したら、さっそく実行に移しましょう。全社で取り組む仕組みとして、全社員に周知するのが理想的です。
実行後は、その結果と効果の度合いを会議で毎月検証します。効果とは、コミュニケーションを実行したことで顧客ランクがアップした事例がどれだけあったかということです。
基準期間を毎月1ヶ月ずつずらして、ランクアップの推移を毎月検証していきましょう。基準期間が3ヶ月であれば、4月から6月までの期間を7月の会議で検証し、5月から7月までの期間は8月の会議で検証するというように、毎月各マスの顧客数の推移を検証し、改善策を検討します。
季節で影響を受ける業種や商品を扱っている会社は、計測期間を6ヶ月や1年など長めにすることで、季節変動の影響を受けにくくできます。顧客ランクマトリクス表の推移と分析方法の事例を掲載するので、参考にしてください。
おわりに
「顧客コミュニケーション実行表」の運用で成果を得るためのポイントは、効果検証と改善をくり返すことです。顧客コミュニケーションのランクアップへの影響度を測りながら、効果のないものは変更するなど、内容のブラッシュアップを継続的に行いましょう。
コツコツ運用を続ければ、営業社員個人の力に頼らなくても、あなたの会社のファンを増やし続けることができます。顧客育成の方法についてもっと詳しく知りたい方、企業を確実に成長させるための「戦略」のについて学びたい方は、ぜひ自著も合わせてお読みください。誰でも簡単に、すぐに使える戦略を完成させることができます。また、戦略立案よりも大事な戦略実行の仕組みを学んでいただくことができます。