中小企業の賃上げの3つのポイント~「賃上げ率」に惑わされてはならない

中小企業の賃上げの3つのポイント~「賃上げ率」に惑わされてはならない

2024年、年明けも円高や資源高など私たち中小企業の経営を左右する環境変化は後を絶ちません。先日発表された賃上げ状況の結果は、大手の賃上げ率は5.25%、中小企業は4.5%ということでした。

予測できたことですが、中小企業の方が賃上げ率が低く、月額賃金、年収も大企業との差がさらに開いてしまいます。このままだと、ますます中小企業は人材の確保が困難になってくるでしょう。中小企業は生産性の向上に本腰を入れて取り組む必要があります。

そうした状況の中で、中小企業の社長にお伝えしておきたいテーマが、“賃上げ”についてです。

「賃上げ率」に惑わされてはならない

なぜ今、こうした内容をお伝えしているかというと、中小企業がとるべきではない考え方や方法をメディアなどが伝えているからです。

まず頭に入れておいてほしいのが、”「賃上げ率」に惑わされてはならない”ということです。

巷では、春闘を通じて「昨年の賃上げ率が3.4%なので、今年は3.9%を目指す」など叫ばれています。これを受けて、「大手の賃上げ率平均が3.5%だったが、うちは4%上げた」と誇らしげにおっしゃる中小企業のトップをときどき見かけます。

これは大きな間違いで、大企業を上まわる“賃上げ率”だったからといって誇れることではありませんし、社員の納得も得られません。なぜかというと、大企業と中小企業では払っている賃金の金額に大きな差があるからです。

中小企業の賃上げは、メディアなどで騒がれる大企業中心の“賃上げ率”を参考に決めるべきではありません。こうした考え方で賃上げしても、社員の納得は得られません。

賃上げ率の具体的な事例

実際、大企業の社員がもらっている賃金に対して中小企業の賃金額はおおむね80~90%となっています。

もちろん、年齢や公開している機関などで差はありますが、月額400,000円の大企業社員がいたと仮定して、中小企業の社員がその85%の場合、
大企業社員 400,000円
中小企業社員 340,000円
となり、その差は60,000円あります。

これに対して、
大企業  4%の賃上げ率
中小企業 5%の賃上げ率
として昇給額を計算してみます。

大企業社員  400,000円×1.04=416,000円
中小企業社員 340,000円×1.05=357,000円

賃上げ額は、
大企業 16,000円
中小企業 17,000円
と中小企業が1,000円上回りますが、賃金総額は59,000円と大きく開いたままです。

これが、中小企業がいくら「大企業と同等、あるいは上回る賃上げを実施した」といっても社員の納得度は得られない理由です。「大手より賃上げ率は上まわった」という社長自身の自己満足が満たされるだけに終わってしまうでしょう。

中小企業が賃上げだけで社員のモチベーションを上げようと思ったら、15%~20%の賃上げが必要だということになります。しかし、これを実現できる中小企業は少ないでしょう。

中小企業の賃上げの3つのポイント

大企業にくらべて賃金の支給額が低い中小企業は、メディアで発表される“賃上げ率”を上まわっても決して社員は納得しない、ということをお伝えしました。

では、実際問題、中小企業はどういった賃上げを行えばよいのでしょうか?

それは、「将来こうする」という社長の決意を同時に示すことです。具体的には、次の3点を伝えます。

1.将来のビジョン、事業計画
2.評価制度
3.賃金制度

1.将来のビジョン、事業計画で10年後までの自社の成長計画を明示します。
2.評価制度で、「1」を実現するための人材育成をどう推進していくのかを伝えます。
3.賃金制度は、「1」で示した成長計画に向かって自社が成長していった場合、賃金がどのようになるかです。

今年、可能な賃上げを実施したうえで、上記3つの内容を社長が直接社員に伝えるのです。

1.将来のビジョン、事業計画作成のポイント

「将来のビジョン」とは、10年後の自社の理想の姿です。これをできるだけ短いことばで表現し、全社員に明示します。

「将来ビジョン」のポイントは2つ。「10年後の自社の姿が映像で見えるものとする」こと、「社員がワクワクし、実現したい思えるものにする」ことです。

「事業計画」はビジョンに到達するまでの数値計画です。具体的には、10カ年分の損益計算書「10カ年事業計画」を作成します。

「10カ年事業計画」作成のポイントは3つ。
・どうやって売上をつくるのか、その構成を明示すること
・将来投資計画を具体的に盛り込むこと
・10年後の生産性を2倍以上とすること

こうして、「1.将来のビジョン、事業計画」を賃上げと同時に打ち出すことで、現状は大手企業より人件費が低い中小企業でも、将来は上まわる組織をつくる覚悟を社長が宣言するのです。

2.評価制度作成のポイント

現状、評価制度があるべき姿で運用できている中小企業は3%未満でしょう。

“あるべき姿”とは、次の5つが満たされている状態です。
1.評価が定期的に行われている
2.その結果が本人にフィードバックされている
3.評価結果が昇給、賞与にどうつながっているか全社員が理解している
4.社員が評価にもとづいた成長目標に取り組んでいる
5.評価制度を通じて社員が成長している

「評価制度」のポイントは、今年の賃上げと同時に下記2点を全社員に向けて社長が約束することです。

(1)あるべき姿が満たされるよう取り組んでいく
(2)そのスケジュールを具体的に示す

もし、あなたの会社の「評価制度」があるべき姿まで到達していない場合、上記2つのポイントが伝えられる準備にすぐに取りかかってください。

ただし、その進め方と社員への伝え方を間違ってしまうと、逆効果になってしいます。期待していた若手が去っていく、リーダーから大きな反発を受けるなどの弊害が出てしまうのです。

3.賃金制度作成のポイント

評価制度があるべき姿で運用できている中小企業は3%未満だとお伝えしました。賃金制度も同じです。評価結果がどのように昇給、賞与につながっていくのか、社員にその手順とルールを明示している中小企業はごくわずかです。

3つ目の「賃金制度」では、これをつくって上記のルールを示すということではありません。1ヶ月やそこらで「評価制度」や「賃金制度」を整備することは不可能ですし、やったとしても逆効果しか出ません。

では、何をやるべきか?それは、「評価制度」の項目でお伝えしたことと同じです。

「賃金制度」も
(1)あるべき姿が満たされるよう取り組んでいく
(2)そのスケジュールを具体的に示す
この2つです。

「賃金制度」での“あるべき姿”とは、
1.評価結果と賃金の結びつきが明確になる
2.社員が将来の年収目標を持つことができる
という2点です。

これらを賃金テーブルの事例などを使いながら解説します。くれぐれも、「これが自社の賃金額だ」と賃金額、テーブルを決定したものを公開しないでください。

なぜなら、賃金制度の前に「経営計画」と「評価制度」を整える必要があるからです。

組織を成長に導く仕組み

最後にみなさんにお伝えしたいのは、組織を成長に導くためのいちばん重要なポイントです。

それは、社員に示した
1.将来のビジョン、事業計画
2.評価制度
3.賃金制度
の運用を徹底するという点です。

そして、中小企業でこれらの運用を通じて組織を成長に導くことができる仕組みが「ビジョン実現型人事評価制度(R)」です。

私自身が23年間、多くの中小企業と一緒に確立した日本人事経営研究室 独自の組織マネジメントの仕組みです。

ビジョン実現型人事評価制度(R)」は、組織全体を成長させる仕組みですから社長(トップ)自身が学び、実践していただく必要があります。

“大企業の賃金、生産性を上まわる中小企業となる”という強い思いをもった社長は、ぜひ「ビジョン実現型人事評価制度(R)」を実践してみてください。以下の記事で作り方をまとめています。

ビジョン実現型人事評価制度®・経営計画書の作り方総まとめ