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このコラムでは、具体的な人事評価制度設計の方法を詳しく解説します。
評価制度の核になる「評価基準」の設計手法
まずは『評価制度』の核になる【評価基準】に関してその設計手法を考えていきましょう。
【評価基準】は人事評価制度の中で最も重要で制度の核になる部分です。それは【評価基準】の役割がなんなのかを把握すれば理解できます。【評価基準】の役割は『社員の行うべき仕事・役割を明確にしたもの』です。
もっと解りやすく言えば社員さんに対して『こういう意識でこのように行動してください』ということを【評価基準】を通して伝えていかなければなりません。
逆に言えば、間違った【評価基準】を作成してしまうと社員が間違った行動をとってしまう。会社の意図しない仕事を行ってしまうということになってしまいます。ですから【評価基準】創りには一番時間をかけて試行錯誤を売り返しながら作成して行きます。
ただし、矛盾するようですが『完璧』は求めないでください。過去の失敗例として100%完璧に近い評価基準を作成しようとしたために評価基準作成だけで1年以上の期間を費やし、いつまで経っても人事評価制度が完成しない、ということもありました。
「60%〜70%の出来かな?」という段階で十分です。「それで大丈夫なの?」という声が聞えてきそうですが、大丈夫です!!残りの不完全な部分は実際に運用しながら改善をしていくのです。
100%と思って導入しても実際に評価をしてみて
「こんなことも評価項目として必要だった」
「部門の戦略が変わったので変更せざるを得なくなった」
「基準のレベルが高すぎた」
等々改善すべき点が必ず出てきます。
もう一度繰り返しますが、【評価基準】はまず「60%〜70%」の出来を目指してください。要は当初立てた設計スケジュールを守っていただければ結構です。
それではいよいよ【評価基準】の考え方ですが、次の4つの視点で【評価基準】の内容を考えていく必要があります。以下の4つの視点です。
- (1)会社方針・戦略に基づいた内容
- (2)役職に基づいた内容
- (3)部署の課題、改善点に基づいた内容
- (4)現状やっている仕事に基づいた内容
(1)「会社方針・戦略」に基づいた評価基準
内容のお話をする前に考え方はこの一つだけではないという点をあらかじめおことわりしておきます。他にも色々な考え方があるのですが、一番まとめやすい考え方を中心にお話を進めます
まず、『会社方針・戦略に基づいた内容』についてですが、どこの会社でも将来のビジョンや方針、目標とそれを達成していくための戦略があると思います。(まだ具体的になっていない中小企業も多いでしょうが・・・)
将来に向けての戦略があると仮定すると、それは、現在行っている仕事以外でやらなければならない仕事があるということになります。これを必ず評価基準の中に入れ込んでいかなければなりません。
【評価基準】の中でも一番重要な部分になります。評価基準は会社の経営目標を達成するために作成するというお話をしたと思いますが、そのための部署ごと、および社員一人一人の役割を【評価基準】に落とし込んでいくことになります。
『会社方針・戦略に基づいた内容』はそういった意味で一番大事な部分になってきます。ということは・・・・・・会社の目標、戦略やそれに伴って各部門がどのような役割を担っていくのかということが具体的に決まっていない会社はそちらを考えていくのが先だということになります。
ですから、『経営計画』が存在しない会社は先に作成してください。綿密に詳細まで作成する必要はありません。今、社長の頭にある将来に向けての計画の中で、『現状の仕事にプラスして社員にやってもらわなければならないこと』を具体的に明確にするだけでも結構です。
念のために補足しておきますが、ポンとつくった経営計画が良いというわけではありません。そんなに簡単に会社が成長できる戦略が出てくるはずはありませんからね。評価基準の作成を急ぐためには簡単に戦略を整理する必要があるということです。
戦略や計画、新しく取り組まなければならない仕事が決まったら、それを箇条書き程度の短いことばで表現し、部門ごとに整理してみましょう。
例えばルート営業中心に営業展開していた企業が新規取引先を3年で100件増やすとしたら何が必要でしょう。
■営業部門
・新規開拓専門部署をつくる
・営業エリアの拡大(福岡市内から近郊郡部まで広げる)
・新規開拓の営業手法(マニュアル)を確立
・進捗状況、対策会議を週1回開催
・専任営業マンの採用
■総務部門
・新規訪問用会社案内の作成
・新規取引決定?決裁?口座開設?取引開始までの仕組みづくり
・それに伴った管理資料の作成
・新規採用に伴った準備
等々まだまだ、たくさん出てくるでしょう。
まとめますが、このように『会社方針・戦略に基づいた内容』を【評価基準】に反映するには「経営計画を作成して、部門毎に新たに発生してくる仕事を明確にすること」が必要になってきます。
どうですか、経営目標を達成するための【評価制度】づくりも意外と大変でしょう?
「経営計画がないということは完成図がない状態でジグゾーパズルを社員にやらせているようなもの」ということを聞きました。会社の将来像がわからないまま現在の自分の仕事に取り組んでいるということですね。
どんなパズルが完成するか社長は怖くないのでしょうか・・・
(2)「役職」に基づいた評価基準
では、どうやって評価基準に落としていくか。それをこれからお話しします。
こんな評価基準をたまに見かけます。全役職共通の評価基準です。
もっとわかり易く言えば、新入社員でも課長でも中堅社員でもみな同じ内容の評価基準で評価をしている会社があるのです。
本来は社内での役職やレベルによって仕事に要求される内容は違ってくるわけですから、このような全役職共通の評価基準では適正な評価はできないし、評価の目的である社員の育成なんて実現できるわけはありません。
役職に基づいた内容を評価基準に反映していくためにはまず、そのレベルを何段階に分けて求めていくかを明確にする必要があります。
これまでは【等級】(1等級、2等級・・・)という名称でその段階を設定する場合が多かったのですが、最近ではアルファベット等(S1、S2、S3・・・)で表現するケースも多くなってきています。
「じゃあ、一体何段階くらいのレベルを設定したらいいの?」ということになると思いますが、500人くらいまでの中小企業なら取締役未満のレベルは7~9段階あれば十分です。
それでも悩むようならまず、7段階に設定してください。その内訳はこうです。
- M2:部長クラス
- M1:課長クラス
- L2:係長クラス
- L1:主任クラス
- S3:中堅社員クラス
- S2:一般社員クラス
- S1:新入社員クラス
(SはスタッフLはリーダーMはマネージャーの略)このS1、S2・・・を人事制度上の資格とします。(今後は資格と呼びます)
中小零細企業ならこれくらいの段階で十分です。あまり多くの資格を設けてしまうと求める仕事内容もあいまいになってしまうのと、賃金が設定しにくくなってしまいます。まず7段階で評価基準を作成しながら、どうしても合わない場合はあとから増減させていけば良いのです。
資格の段階が決定したらそれぞれの資格に求められる仕事の内容を考えてみましょう。そしてそれを資格ごとに明記しておきましょう。もうお気づきの方も多いでしょうがこの資格が昇進昇格の骨格となります。
ここで、資格と役職とをリンクさせる(資格と役職を一致させるL1=主任というように)かどうかという疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
それはそれぞれの会社の状況によって変わってきます。もし、あなたの会社が今後売上・組織規模を拡大し、役職のポストを増やしていけるのなら資格と役職をリンクさせるべきです。
また、あなたの会社が組織規模の拡大はほとんど行わず、役職者はこれ以上増やしていけないという状況だったら資格と役職はリンクさせるべきではありません。
もし、後者の場合に資格と役職をリンクさせてしまうと、実力が上がって十分上の資格のレベルなのにポストに空きがないため昇格できないということになってしまい社員のモチベーションの低下につながってしまいます。
さて、あなたの会社の昇進昇格のステップと求める仕事レベル、役割は明確になりましたか?
(3)「部署の課題、改善点」に基づいた評価基準
これまでの、(1)または(2)の部分については、ある程度経営者だけで考えていってもよいと思いますが、(3)、(4)の部分については、社員の(特にリーダークラスの)に加わって考えてもらってもよいでしょう。
というより、社員の方に参加いただいたほうが評価の本来の目的【教育】へと結びつきやすいです。
なぜなら、評価基準創りの段階から社員(リーダー、評価する人)に参加してもらうことによって評価に対する意識付けができるからです。
また、自分たちで創った評価基準なのだからそれに基づいて仕事をしたり、指導を行ったりせざるを得なくなるというのもひとつのメリットとして上げられるでしょう。
ただし、社員に参加してもらうことによって確実に評価基準創りの進捗スピードは低下します。参加してもらったリーダーを教育しながら「あーでもない、こーでもない」と議論していくわけですから確実です。
まとめると
【パターン1】
<1>経営者による評価基準作成
<2>評価者の理解、教育、浸透、評価者研修
<3>全社員への公開
【パターン2】
≪1≫評価者参加による評価基準作成、理解、教育、浸透
≪2≫評価者研修
≪3≫全社員への公開
時間の関係で言うと
<1> < ≪1≫
<2> > ≪2≫
<3> = ≪3≫
となります。このどちらのパターンで行くかになりますが、会社の現状に合わせて選択して行っても良いでしょう。
話しを戻します。(3)はそれぞれの部署の課題、改善点を抽出、評価基準に盛り込むと言う作業になります。
まず、この『課題、改善点』は評価基準創りに社員が参加するかどうかに関わらず、現場の社員に洗い出してもらった方が良いでしょう。この時は、リーダーのみならず可能なら全員に考えてもらうと様々な業務上
の課題が出てきます。
もちろん、出てきた課題の中から評価基準に取り入れるべき事項、そうでない事項を選別する必要があります。
選別の基準は優先順位に尽きるでしょう。優先順位の付け方としては【緊急性】【重要度】【方針、戦略に含まれるか否か】といった判断基準でしょうか。
いかがですか?あなたの会社のそれぞれの部署の課題や改善点が見えてきましたか?・・・・・・といっても、まずは社員の方の課題の抽出がスタートです。
方法としては「あなたが考える仕事上の課題、改善したい点」「現状やれてないが本当はやりたい仕事、やらなければならないと思っている仕事」といった内容で社員に抽出してもらいます。
こうして出てきた情報は、たとえ評価基準作成のためでなくても経営者にとって役に立つ情報となるでしょう。
早速実践してみてください。
(4)「現状やっている仕事」に基づいた評価基準
実はこの(1)~(4)は優先順位で並べています。といいうより最も評価基準創りのときに盛り込みにくい順番と言った方がよいでしょうか。
ということは、一番楽に盛り込みやすいのが(4)ということになります。ですから(4)についてはあまり強調すべき点はありません。
作成の手順としては前回お話したように現場の社員にまず書き出してもらいます。「現状行っている仕事」という観点で仕事の項目と内容を各社員さんに自由にまとめてもらったらよいでしょう。
それをもとに評価項目を検討して行きます。ポイントとしては当たり前に全員ができている仕事は具体的に評価項目としていかなくてもよいでしょう。全ての業務を網羅しようとしたら評価基準が膨大なボリュームになって、運用が大変になってきます。
さて、(4)の項目ができたら今まで作成してきた(1)~(4)の項目を整理して並べてみましょう。
どうでしょうか、あなたが思い描いた評価項目になっていますか?ちょっと不十分かな、と思っても結構です。今の段階では60%くらいの出来でOKです。
あとは実際運用しながら調整をしていきましょう。



