名ばかり管理職と管理監督者の違い、問題点と整理の仕方を解説
良かれと思って昇格させた社員が「自分は、名ばかり管理職なのでは?」と思い悩んでいるとしたら、経営者として見過ごすわけにはいきません。名ばかり管理職と管理監督者の違いを知り、社員に正しい役職と、仕事に見合った給料を与えましょう。本記事では、名ばかり管理職の問題点を解説します。
名ばかり管理職とは
名ばかり管理職とは、管理職としての肩書を与えられていながらも、相応の権限や待遇を与えられていない社員を指します。「店長なのに、オーナーからの許可がなければ働き方を一切変えられない」「課長になったら、責任が増えたのに給与が減った」といった人は、名ばかり管理職である可能性があります。
とくに名ばかり管理職が問題になる背景には、「管理監督者は、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けない」という取り決めがあります。一般的な言い方に替えれば「管理職には残業代等を支払わなくてよい」ということになるため、役職が与えられたとたんに給与が減ってしまう社員がいるのです。
以下の記事に、一般企業や海外企業(外資系企業)の役職一覧を掲載しています。この記事にあるような役職であるにもかかわらず、仕事に関わる権限が極端に少なかったり、待遇が他の一般社員と変わらなかったりするのであれば、名ばかり管理職を疑ってもいいでしょう。
役職一覧(一般企業、海外企業/外資系企業)、順位とそれぞれの役割を解説
名ばかり管理職と管理監督者の違い
名ばかり管理職と、正式な管理職である管理監督者には、以下のような違いがあります。
労働時間の枠を超えて活動せざるを得ないような、重要な仕事があるか
労働条件の決定や労務管理において経営者と一体的な立場にあり、会社の存続に直接かかわるような重要な仕事を任されていないのであれば、管理監督者とは言えず、名ばかり管理職ということになります。
例えば、一店舗の「店長」だとしたら、アルバイトやパートの採用、解雇、労働時間の管理などについて任されているのが一般的です。一般のパートやアルバイトと変わらない仕事しかせず、たんに仕事の「リーダー」として「店長」を任されているというだけでは、管理監督者とはいえません。
規制枠を超えて仕事をせざるを得ないような責任と権限があるか
先の例でいえば、「店長」としてパートやアルバイトの人事考課等、給与を決めるための重要な事項にタッチしているわけでなければ、管理監督者としての責任と権限が与えられているとはいえません。また、商品やサービスの価格、内容を決める権限がない人も、管理監督者とはいえないでしょう。
もちろんこれは「店長」だけでなく、部署ごとの長などにも起こりうるケースです。経営者に近い責任と権限がないのであれば、それは名ばかり管理職なのです。
勤務態様が労働時間等の規制に馴染まないものであるか
管理監督者であれば、出退勤の日や時間を自分で決めることができます。これは自由度が上がるというよりも、任されている仕事が重要かつ膨大であるからこそ、当然に起こりうることです。管理職になってもタイムカードを押し、それによって給与が左右されているようでは、管理監督者とはいえません。
また、管理職としての業務が日常業務の大部分を占めていない場合も、管理監督者とはいえないでしょう。業務の9割が一般社員と同じようなものであり、残りの1割でマネジメント業務をするといった業態では、名ばかり管理職といわざるをえません。
地位にふさわしい待遇がなされているか
管理監督者には残業代等がありませんが、それは業務の形態が規制に馴染まないからです。残業代を軽く超えるような待遇がなされていなければ、管理監督者とはいえません。
管理者手当てが全くないのであれば、それは名ばかり管理職です。もっとも、そのような会社であれば、誰も管理職になりたいとは思わないでしょう。
参考:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために | 厚生労働省
名ばかり管理職の問題点
名ばかり管理職の問題点は、残業代が出ないなど手当面のほか、精神面にもあります。責任と権限がアンバランスなままだと、上司と部下との間で板挟みになってしまうケースが多々あるためです。
例えば、アルバイトAさんが「もっと時給を上げてほしい」と訴えたとします。名ばかり管理職である店長が「Aさんの働きぶりからすれば50円上げても良い」と感じ、上に提案しても「前例がないから時給を上げられない」などと返答されるばかりでは、店長はどうすることもできません。
アルバイトのAさんが、店長よりも上の人に直談判するのは難しい話です。結局、Aさんはもっと時給の良いバイトに移ってしまうという結果になっても仕方ないでしょう。すると今度は、店長が「ベテランを辞めさせた。説得材料はなかったのか」などと、上から責められることもあるでしょう。それで評価まで下げられてしまうと、辛いですよね…。
このように、権限を委ねられていない単なるリーダー格の名ばかり管理職が、責任だけを負わされる例は、労務トラブルだけでなくクレーム処理など枚挙にいとまがありません。給与は安く、責任は重く、権限はない。これでは労働者の心は病んでいくばかりか、「管理職にはなりたくない」という気持ちを生み出させてしまいます。
名ばかり管理職の整理の仕方
「管理職になりたい」と向上心のある社員がいなくなってしまうのは、会社にとって大きな痛手です。そうならないために、まずは自社の名ばかり管理職を整理しましょう。
例えば、このような社員はいませんか?
「課長になって何年も経ち、本来であれば部長となる時期だけれど、実力が伴わない。この人には『副部長』になってもらおう」といった経営陣の判断から、苦肉の策として副部長に…。「部長代理」といった職名もありえます。
他にも、「担当部長」「次長」「課長補佐」などといった役職が名ばかり管理職となっている恐れがあります。こうした役職は、統合・整理するのが理想です。
降格ではないことを必ず伝える
管理職の統合・整理の際には、注意点があります。それは、降格ではないことを本人に理解させ、社内でも周知することです。役職名を現状の「部長」「課長」から「マネージャー」「リーダー」などに刷新する方法をとる場合もあります。
そして、廃止・統合するのは、役割や求める仕事が明確になっていない役職だけであることにも注意してください。前述の、あいまいに思えるような役職名であっても、組織上できちんと役割が確立していれば、問題はありません。
役職は社員の実力や役割をもとに決める
役職は、社員の実力や役割をもとに決定するのが大前提です。本人が現状行っている仕事のレベルや、発揮している実力を検証して役職を与えます。
しかし、中小企業では、社員の成長に応じた教育を計画的に行っていない場合が多いです。そのため、社員の実力をみて役職を決定すると、元の職位よりも下がってしまったり、社内で認識されている本人の地位より低い役職となってしまったりすることが少なくありません。こうなると、本人のモチベーションに悪影響を及ぼします。
そこで、中小企業はもう一つの方法をとったほうがよいでしょう。それは、本人に求めたい仕事のレベルを設定し、それに沿った役職をつけるという方法です。現状では求められる仕事ができていなくても、任せればそのレベルの仕事がこなせるだろうという期待のもとに、役職を与えます。
ただ、この方法にもデメリットがあります。それは、期待が盛り込まれているがために、実際に仕事を任せた当初は期待通りにならないことが多く、評価が低くなってしまうということです。評価が低くなれば、やはり不満やモチベーションの低下につながりかねません。
不満やモチベーションの低下を防ぐためには、正式な評価を下す前に、給与や査定に直接影響を与えない「トライアル評価」を設けることが重要です。トライアルを3回ほど繰り返せば、本人に期待できる仕事のレベルや、ふさわしい役職がおのずと見えてくるでしょう。
役職や等級の決め方については、以下の記事で詳しく解説してあります。ぜひ参考にしてください。
管理職手当(役職手当)の決め方
名ばかり管理職の問題を避けるためには、適切な管理職手当を設定しなければなりません。役職手当を設定する際には、ざっくり決めてから細かく調整するのがポイントですが、肝心なのは、各等級間の給与バランスを守ることです。
管理監督者となれば、残業代は支払われませんから、その代わり、残業代を軽くカバーするような管理職手当を与える必要があります。非管理職の最上位グレードの時間外手当を完全に上回るよう、管理職手当を設定しましょう。
詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
以下の記事では、役職手当のほか、賞与の決め方についても解説しています。
おわりに
名ばかり管理職の問題は、個別に対策すればよいわけではなく、全社をもって対応すべき深刻なものです。でなければ、一つ問題を回避したとしても、また新たに同じような問題が出てくるでしょう。一つ一つの役職について、どんな権限と責任を持たせるのが適切か、給与は低すぎる設定になっていないかを、今一度洗い出してみましょう。
そして問題が解決したら、その後は個々の事情によって新しい役職を作り出すのをやめるべきです。「昇進させてあげたいけれど、実力が足りない」と感じる人物がいたら、どのような役職をつけるべきかではなく、その社員をスキルアップさせるにはどんな人材育成対策が必要かを考えてみてください。