人材戦略:人材を育成するための3つの戦略
中小企業が自社にとって本当に必要な人材を育成するには、「人事評価制度の構築・運用」「戦略的採用の推進」「計画的教育・研修の推進」の3つの戦略が有効です。良い人材がいるか否かは、会社の業績に直結します。経営者が率先し、組織全体で取り組むことで、持続的な成長を支える人材戦略を実現しましょう。
人材戦略1:人事評価制度の構築・運用
人事評価制度は、「評価制度」「賃金制度」「昇進昇格制度」の3つの制度から構成されます。3つの制度の中で、「評価制度」の役割がもっとも重要です。その目的は、戦略を実行しながら成果を出せる人材を育成することです。社員が同じ方向を向き、それぞれ戦略を推進することが、経営計画の実現に向かって組織が成長していく原動力となります。
ところが、一般的に人事評価制度は「社員の査定」や「賃金」を目的として運用されるだけで、人材育成や経営計画の推進とは全く別ものという扱いをされています。これらを一緒に連動して運用することで、組織全体の大きな成長につなげることができるのが、私がご提案する「ビジョン実現型人事評価制度®」です。
「ビジョン実現型人事評価制度®」の構築・運用の手順、ポイントは、記事「ビジョン実現型人事評価制度®・経営計画書の作り方総まとめ」で詳しく解説しています。ここでは、成果に結びつけるためのポイントを2つお話ししておきます。
ポイント1:人事評価制度は社長が中心となって運用する
社長が担当者や総務部門長任せにして人事評価制度を運用していこうとしても、決してうまくいきません。人事評価制度の目的は人材の育成であり、会社を成長、進化させていくための改革プロジェクトです。社長以外の推進リーダーは考えられません。
ポイント2:人事評価制度の改善を継続する
多くの場合、人事評価制度は制度ができれば、そのまま5年、10年変える必要はないという考え方で運用されます。しかし、成果につながる人事評価制度とするためには、運用しながら継続的に改善しなければなりません。
ぜひ、この2つのポイントを頭に入れて構築をスタートしてください。
人材戦略2:戦略的採用の推進
中小企業の成長を阻害する、やってはいけない採用パターンが2つあります。それは欠員が出たときに穴埋めを行う「欠員補充型採用」と、「人手が足りない」という現場の声をもとに採用する「現場要望型採用」の2つです。
欠員補充型の採用では、現状の事業活動を維持するための採用しかできません。将来を見据えた人材確保や育成という視点が欠けているわけですから、到底、組織の成長や発展につながることはないでしょう。また、短期間で人材を採用しなければならず、見極めが足りずに質の低い人材を採用してしまうということも多いものです。
「人手が足りない」という現場の声を無視すべきというわけではありませんが、一時的な忙しさが影響しているほか、効率化や改善で対処できることも多いものです。慌てて採用を行う前に、他に解決できる方法や対策はないかを考えた方がいいでしょう。
中小企業が新たな人材を戦略とし、成長していくためには「考え方採用」と「計画的採用」が必要です。この2つについて解説します。
考え方採用とは
「考え方採用」とは、考え方重視〞の採用を行うということです。あなたが自分の会社の人材を採用するとしたら、「A、B、C、D」の人材のうち、誰を優先して採用しますか。採用を優先する順に並べてみてください。
- A:能力が高く、考え方も正しい人材
- B:能力が高く、考え方が間違っている人材
- C:能力が低いが、考え方は正しい人材
- D:能力が低く、考え方も間違っている人材
正解は、「A→C→D→B」となります。ポイントは、BよりもDを優先することです。その理由は、「B」に該当する人材が中小企業に入ってくると、会社や他の人材にマイナスの影響を及ぼすからです。その結果、組織成長の大きな足かせとなってしまいます。
考え方が間違っている人材は、会社の理念や方針と合わない仕事の進め方や言動をしてしまいます。さらに能力が高いので、自分の間違った言動を論理的に正当化したり、まわりを扇動し、正しい考え方で仕事をしていた他の社員まで巻き込んで間違った考え方に導いたりする場合が多いのです。
一方、Dに当たる人材は周りへの影響力がそれほど大きくありません。また、一般的に、Dにあたる人材には素直な人も多く、正しい考え方や能力を指導していくことで、会社に貢献してくれる人材へと成長する可能性も高いのです。
計画的採用とは
計画的採用とは、10年単位の事業計画を作って10年後までの人員計画を作成し、これを1年間の採用計画推進表に落とし込んで、計画的に採用活動を行っていくことです。「事業がこのように発展していくから、この分野に携わる社員が○人必要」と、目標に向けた採用を行うのです。
中小企業は、募集から採用に至るまでのプロセスも定めずに採用活動を行っているケースも少なくありません。これを機に、自社の採用プロセスの見直しと確立にも取り組みましょう。
人材戦略3:計画的教育・研修の推進
社員に対して、継続的に教育・研修を行っている中小企業はごくわずかです。一方、大企業では、ビジネススキルや担当領域の専門性、階層に応じた計画的な研修プログラムが組まれ、社員全員が継続的教育を受けています。この差が、大企業と中小企業の人材レベルの差を生み出しています。特にリーダー育成のための仕組みが足りないのが、中小企業の特徴です。
戦略的に人材教育・研修を実行する場合、間違いやすいポイントが3つあります。改善のためのヒントと合わせて、1つずつ解説します。
間違いやすいポイント1:即効性を求めてしまい、継続的に行えない
中小企業の社長には、「高いお金をかけて研修に行かせたのにまったく結果を出してくれない」と、すぐに教育をやめてしまう人がいます。しかし、社員の教育・研修は、将来ビジョンを実現するための人材投資です。研修で学んだことを活用し、すぐに成果を出せる人はまずいません。
具体的な成果が出ていなくても、5年後、10年後の業績に大きく影響を与える組織全体の人材力を着実にアップしているという意識で継続投資し続けることが大事です。
間違いやすいポイント2:社長・幹部が学ばない
新たに教育・研修に取り組もうとすると、まだ仕事のスキルが低い新入社員や若手から学ばせようとする中小企業が多いですが、これは間違いです。教育・研修は、社長や幹部など上位職層から順番に、質が高く多くの量を学ぶ必要があります。
なぜなら、上位職ほど会社の業績に与える影響度が大きいためです。中小企業では本来知識やスキルをいちばん持っていなければならないリーダーが学んでいない傾向があります。ぜひ、上層部が経営手法やリーダーシップを学べる研修を組み込んでください。
間違いやすいポイント3:OFF-JTを行っていない
現場で業務を通じて教育を行うOJT(ON THE JOB TRAINING)は、すでに行っている中小企業もあるでしょう。OJTには、中小企業の社員に不足している知識やスキルを身につけるのは難しいという欠点があります。
個別戦略として推進する教育・研修は、通常の業務から離れ、個別に時間を取って行う「OFF THE JOB TRAINING」としましょう。
自社オリジナルのプログラムを確立し、継続して行うのが大事
最初は、どのような研修をしたらよいかわからなかったり、講師を呼んで実施しても自社にマッチしなかったりといったこともあるでしょう。しかし、あきらめずに、試行錯誤しながらあなたの会社に合った推進方法を確立してください。
なお、社長自身が幹部やリーダーに対して理念を直接教えるプログラムを必ず盛り込みましょう。幹部・リーダーと社長のベクトルが合っていなければ、組織はまとまらないからです。
また、「階層別」と「職種(業務)別」に区分してプログラムを計画していくことで、組織全体の力を底上げするために必要な教育をカバーできます。いちばん重要なのは、これを継続していくことです。
おわりに
人材戦略を成功へ導くためには、継続的な努力と計画的な施策が不可欠です。ご案内した3つの戦略を組み合わせることで、中小企業は持続的な成長を実現できます。
社長が率先して人材育成に取り組み、仕組みを少しずつ改善しながら実行することで、優れた人材が育ち、企業の発展につながります。企業の成功を支える本質的な人材戦略を、邁進していきましょう。
本記事で解説した3つの人材戦略は、拙著『【改訂新版】図解 小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』にて、中小企業の業績向上につながる”20の戦略ラインナップ”と共に図解付きでより詳しく解説しています。
実際に、戦略を推進・実行して成果を出すためには、組織の仕組みづくりと運用方法を知ることが大切です。拙著ではそれをしっかり学んでいただけます。ぜひ手にとってお読みください。
拙著に掲載しているその他の戦略は別記事で解説しています。