人事の課題解決は適切な評価制度の導入がカギ

近年では「退職代行」の利用者が増加傾向にあります。その他、「リベンジ退職」、「静かな退職」など企業の“退職”にまつわる話題を耳にする機会も多くなりました。人材不足に悩む中小企業にとって人材の確保と定着は、経営の重要課題です。
この記事では、退職に関連するアンケートの結果と筆者の経験をもとに、人事課題の本質とその解決策である人事評価制度の導入について詳しくご紹介します。
目次
中小企業が抱える人事課題に関する意識調査
当社は2025年5月、全国の中小企業の経営者および人事担当者100名と、転職経験がある一般社員100名を対象に「退職」についての意識調査を行いました。すると、退職経験者が「会社を退職した理由」と、人事や経営者が「社員が退職した理由」の認識にギャップがあることが分かりました。
アンケートでは、「職場環境」や「給与や待遇への不満」という理由に関しては認識の差はないものの、「会社や自分の将来性に不安を感じた」ことを退職する理由に選んだ人は30.0%。同じ理由を社員が退職する原因だと考える経営者・人事担当者が18.0%という結果になりました。この結果から、社員と人事や経営者の認識に大きなギャップがあると判断できます。つまり、経営層は、社員が自社に対して感じている将来への不安を解消できていない可能性があると考えられます。
さらに、社内に「静かな退職者」(退職はしないが仕事に対する熱意を失っていて、与えられた以上のことはやらない状態の社員)がいるかどうかを聞いたところ、半数以上の53.0%が「いる」と回答しました。
なぜこのような「静かな退職者」が発生してしまうのでしょうか。
転職経験のある社員に対し、働く中で与えられた仕事以外はやりたくない、仕事をたくさん振らないでほしいと感じることはあるかを聞いたところ、「かなり感じる」と「少し感じる」を合わせると7割という結果になりました。
さらに、与えられた仕事以外はやりたくない、仕事をたくさん振らないでほしいと感じる理由を聞くと、「業務量がすでに多くて手一杯だから」が42.9%、「努力しても報酬に反映されないと感じるから」が37.1%、「努力しても評価に反映されないと感じるから」が35.7%となりました。
仕事が増えたとして、報酬にも評価にも反映されないとしたら、社員のモチベーションが上がらないのも仕方のないことと思えてしまいます。
6割超の中小企業が人事評価制度を導入していない
アンケートでは、さらに、6割超の中小企業が人事評価制度を導入していないことが分かりました。導入していない企業に理由を聞くと、「業績に影響しないから」が74.2%と大半を占める結果となり、評価制度を業績と直結しないものと捉えている経営者・人事担当者が多いようです。
しかし、人事評価制度を導入することは、本当に業績と関係ないことなのでしょうか。私はこれまで、多くの企業様の人事評価制度をコンサルティングしてきました。経営者ご自身の手で、しっかりとした人事評価制度を作り上げることで、まるで水を得た魚のように社員が生き生きと働き出す様子を幾度も目にしました。
私の経験からいえば、評価制度を導入していないことが、社員が感じる会社の方向性への不安や「努力しても報われない」という気持ちに繋がっているのではと感じます。会社にとって、社員のモチベーションは何よりの財産です。社員が熱意を持って働くからこそ、会社の業績に繋がっていくのです。
↓アンケート結果
中小企業が抱える人事課題に関する意識調査
優秀な人ほど辞めてしまうという人事の課題
中小企業にとってはとくに「優秀な人ほど給与の多い他社に転職してしまう」「管理職としての活躍を期待していた人材が引き抜かれてしまう」といった事態は、大きなダメージです。
優秀な人が辞めてしまう理由には「人事評価に不満がある」「成長機会がない」「会社のビジョンに合わない」「裁量権が狭い」など、さまざまなものが考えられます。
辞めてしまう理由のうち、「会社のビジョンに合わない」というのは仕方のないことです。相性というのは人間と会社の間にもあることで、マッチングが叶わなければ別のところへ移るのが本人のためでも、会社のためでもあります。
しかし、人事評価制度が確立されておらず、成長機会に乏しいと感じての転職は、会社にとって損失が大きすぎると言わざるを得ません。優秀な人はとくに「正当に評価されたい」「制度のしっかりした会社で働き、成長したい」という意欲が高いものです。
優秀な人が辞める原因については、以下の記事でさらに詳しく掘り下げています。
人事評価制度を導入しているものの運用できていないケースもよく見受けられます。人事評価制度は作成・導入したら終わりではありません。運用してこそ効果を発揮します。
運用もしているけれど人材流出が後を絶たないという場合は、運用の仕組みがしっかり確立できていないことがひとつの原因と考えられます。人材流出という人事の課題を解決するには、評価制度の運用ルールを作って制度をうまく回し、運用後も適正な評価を実施・継続できる仕組みを作っておかなければなりません。
人事評価制度の作り方や運用の仕方は、以下の記事で詳しく解説しています。
人事評価制度を導入して人事の課題を解決
弊社は独自の「ビジョン実現型人事評価制度®」を確立し、数多くの中小企業の人事評価制度の課題解決をお手伝いしてきました。
「ビジョン実現型人事評価制度®」は、優秀な社員を会社につなぎ止めるだけでなく、社員全員が本来持っている成長の遺伝子を呼び起こすことができる仕組みがあらかじめ組み込まれています。求める人材が採用できる組織になり、成長意欲を持った社員が育つ会社に変えていくシステムです。
ここでは「ビジョン実現型人事評価制度®」を導入する6つのメリットをご紹介します。
メリット1:経営理念・ビジョンを浸透させられる
「ビジョン実現型人事評価制度®」は、まず経営理念やビジョンを明確化し、それを制度に反映させていきます。よって、人事評価制度を運用することにより、会社の価値観や目指す方向性を日常業務に落とし込むことができます。
評価基準が理念と連動していれば、社員の行動が自然とビジョン実現に向かうようになります。一方で、会社のビジョンと「相性が合わない」社員は評価が低くなっていくため、辞めてしまう人材が出てきますが、会社と社員にも相性があるのでそれは仕方がないことです。大事なのは、会社のビジョンに共感してくれる、成長意欲を持った社員だらけの組織を作ることです。
メリット2:社員のベクトルを一つにできる
経営理念やビジョンを反映させた人事評価制度にすることで、社員一人ひとりが経営理念やビジョンを意識した行動を取ることになります。つまり、行動のベクトルがそろいます。
社員一人ひとりの意識がバラバラだと、せっかくの組織の強みを生かし切ることができません。社員全員の行動のベクトルがそろうことで、会社の成長を爆速化できます。
メリット3:社員のモチベーションが高まる
「ビジョン実現型人事評価制度®」は、社員一人ひとりの役割や成果を「見える化」し、成長の方向性を明確にします。どのように頑張れば評価がアップするのかがきちんと分かれば、社員はモチベーションを高めて働いてくれます。
また、評価を通じたフィードバックと、「これからどうすればいいか」を評価者と相談する時間を設けることで、社員のモチベーションはさらに高まります。結果、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
メリット4:社員とリーダーの育成ツールができる
評価制度は単なる査定ではなく、人材育成のツールでもあります。面談やフィードバックを通じて、社員の課題や強みを把握し、成長支援ができます。
そしてリーダーもまた、評価者として制度を運用していくことで、マネジメント力をつけていきます。とくに中小企業は、マネジメント力を持つリーダーが育ちにくい傾向があります。人事評価制度を運用することで、リーダーの成長を促すことが可能です。
メリット5:公平性と納得感のある職場になる
評価基準が明確であれば、上司の主観に左右されない公平な評価が可能になります。納得感のある評価は、職場の信頼関係を築きます。
「ビジョン実現型人事評価制度®」では、評価が終わるたびに「納得度アンケート」を行うことを推奨しています。アンケートで評価に対する社員の満足度や「ここを改善して欲しい」という意見を知ることができるため、より会社に適した評価制度にブラッシュアップしていくことができます。
メリット6:経営戦略との連動で業績に直結させられる
「ビジョン実現型人事評価制度®」では、評価制度を経営計画と連動させて運用します。すると、組織の目標達成に向けた人材配置や育成が戦略的に行えます。社員の成長が、会社の成長へダイレクトに繋がるということです。
ここまで「ビジョン実現型人事評価制度®」のメリットを中心にご紹介しましたが、以下の記事で制度の設計や運用の方法を詳しくまとめていますので、ぜひあわせてお読みください。
おわりに:制度の導入で人が成長し、会社も成長する
社員のモチベーションを高め、組織の力を最大限に引き出すために人事評価制度を導入することは、もはや選択肢ではなく必須の経営戦略です。制度設計に悩む方、導入の一歩を踏み出したい方は、私の著書『【改訂新版】図解 小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』をぜひご一読ください。「ビジョン実現型人事評価制度®」の考え方から導入、運用方法までを図解で分かりやすく紹介しています。

































