中小企業で使える3つの商品戦略、どんな会社でも使えるスタンダードな商品戦略の立案方法
中小企業が成長を続けるために必要な戦略の1つとして「商品戦略」があります。「商品企画・開発プロジェクト」と「商品ランク分類」、そして「生産計画と実行」の3つです。戦略を考えるといっても、難しいのではと構える必要はありません。どんな会社でも使える、スタンダードな商品戦略の立案方法を解説します。
中小企業の商品戦略
商品戦略とは、自社の商品やサービスをどう開発し、どのように販売していくかといった方針を固めることです。ものづくりをしている企業にとっては一番といってもいいほど重要な戦略ですし、企業が社会に提供しているもの全てをサービスと捉えれば、商品戦略はどのような企業においても必要といえるでしょう。
また、マーケティング戦略の用語として似たような言葉に「製品戦略」があります。製品戦略とは、「プロダクト(Product)戦略」とも呼ばれ、マーケティングミックスの1つです。マーケティングミックスには、他に「価格(Price)戦略」「流通(Place)戦略」「プロモーション(Promotion)戦略」があり、「プロダクト(Pro
戦略」と合わせて「4つのP」といわれています。
4つのPの中で、製品戦略はターゲット層にどんな製品やサービスを提供するかという役割を担っています。そして他の3つの戦略と連動させながら、製品を顧客へと届けていきます。
今回解説する「商品戦略」は4つのPの中の1つというくくりではないため、若干意味合いが違ってきますが、用語として押さえておきましょう。
中小企業で使える3つの商品戦略
中小企業で使える3つの商品戦略について、順に解説していきます。
戦略1:商品・サービス開発
企業が発展していくには、新商品や新サービスを開発していく必要があります。ところが、中小企業では、5年、10年と同じ商品・サービスを提供し続けている会社も少なくありません。ここでは、商品・サービス戦略の取り組み方をご紹介します。
この戦略では、「10カ年事業計画」の策定時に新商品のリリースと既存商品のリニューアルの時期を決めます。「10カ年事業計画」の作り方については、下記の記事をご参照ください。
「10カ年事業計画」の売上内訳の中に、いつ商品を開発し、いくら売上をつくっていくのか、具体的な数値を考えながら盛り込んでいきます。このときに、既存商品のリニューアルのタイミングを決めて売上増加を狙ってもよいでしょう。
ここでのポイントは、この時点では具体的な新商品や新サービスの内容を決めておく必要はないということです。「2年ごとに新商品をリリースしないと10年後の売上5倍増加の達成は難しいだろう」「既存商品のリニューアルは3年ごとに行っていこう」など、ざっくりとした内容で構いません。最初から計画通りにいくものを作成するのはハードルが高いので、このあとに紹介するアクションプランの実践で精度を高めていけば大丈夫です。
次に、「アクションプラン」に具体的な計画を盛り込みます。アクションプランは、企業戦略を推進し、成果を出すために必要な実行計画のことです。アクションプランについて詳しくは下記の記事をご参照ください。
ここでは下記のアクションプランを事例として解説します。
- 「商品企画・開発会議」 による新商品開発とリニューアル
この商品開発とリニューアルの計画と当該年度の成果指標までは、社長とプロジェクト全体と推進しているメンバーで一緒に決めたほうがよいでしょう。
次のステップの「商品企画・開発会議」では、アクションプランの推進メンバーとは別のメンバー、たとえば顧客と直接接している人や最新トレンドに明るい人などをメンバーに加えて開催しましょう。なぜなら、社長や幹部メンバーだけでは斬新なアイデアや新しい発想が出にくいからです。
ここで、「売れる新商品」の開発において、中小企業が陥りやすい3つの間違いをお伝えします。
- 1:他社が成功した類似商品を企画する
- 2:大きな投資(宣伝広告費を含めて)が必要な商品を開発する
- 3:いきなり広い範囲の客層やエリアを狙った商品を開発する
これらは、私が長年のコンサルティングを通して体験した、中小企業に起こりがちな失敗です。会社の利益を大きく損なう可能性がある投資が必要となる新商品や新サービスの開発は、中小企業が採るべき方法ではありません。
また、広く受け入れられる商品を開発したほうが売上が大きく上がると考える方もいますが、中小企業は逆の考え方で開発を進めたほうがよいでしょう。いちばん身近で、できるだけ狭い範囲の客層をターゲットに新商品や新サービスを開発したほうが利益性は高まります。自社と取引のあるいちばんの優良顧客に対して、どんな商品やサービスが受け入れられるだろうかという考え方からスタートしてみてください。
戦略2:商品分析・ランクづけ
企業が発展するためには、利益の確保が必須です。その利益の中でも「粗利益」が源泉となります。粗利益から営業活動費や販促活動費、人材費などに投資を行うことで、企業は成長します。
粗利益の確保は自社の成長に欠かせないものであるにも関わらず、自分が担当している商品やサービスの粗利益を把握している営業社員や販売担当者が少ないのが現実です。商品の企画や製造に関わっている社員でも把握できている人は少ないでしょう。
ただ、社員に自社の利益に関する情報を開示しておらず、利益を高める教育をしていない場合、社員はどう行動したらいいかわかりません。「うちの社員は利益意識がない」と嘆く前に、戦略を練る必要があるでしょう。
そこで提案したいのが、「商品分析・ランクづけ戦略」です。社員全員が粗利益を把握できるようになれば、利益意識が高まり、生産性を劇的に高めることができます。
この戦略では、自社の業績への貢献度を商品やサービスごとに分類し、ランクづけをしていきます。まずは商品・サービスごとに次の指標を算出し、一覧表を作成してみましょう。
- ①粗利益
- ②粗利益率
- ③売上
- ④販売数量、利用回数
- ⑤売上、粗利益の商品ごとのシェア
- ⑥商品・サービスの将来性
⑥の「商品・サービスの将来性」は、たとえば「◎大いに将来性が期待できる、◯拡大の余地あり、△伸びしろが少ない、✕縮小見込み」という4段階で分類し、今後力を入れていくべき商品・サービスであるかを見極める判断材料としてください。
指標を算出したら、今後力を入れていくべき順番に並び替えてみましょう。そして、指標を見ながら、会社全体の収益や生産性、ブランド力を強化するにはどの商品・サービスに力を入れるべきか、優先順位を決めてください。
ポイントとなるのが、①粗利益、②粗利益率、⑥将来性などです。具体的な判断基準がないと優先順位づけが難しい場合は、①〜⑥の指標をポイント化して数値化し、合計ポイントで決める方法もあります。
正しくランクづけできているか判断できない場合は、指標を入れ替えながら時間をかけて徐々に正しいランクを把握していきましょう。
この戦略では、粗利益額、粗利益率、将来性などをもとに商品分析を行ってみてください。そして、商品分析・ランクづけを行った一覧表を社内で共有しましょう。そうすることで、全社員が自社の商品・サービスの実態と方向性を理解することができ、一人ひとりの意識と行動が変化します。
【商品ランク分類の例】
粗利益 (千円) |
粗利率 | シェア | 売上 (千円) |
シェア | 販売個数 | |
A商品 | 23,000 | 31.94% | 53.66% | 72,000 | 38.33% | 350 |
B商品 | 12,000 | 13.19% | 28.00% | 91,000 | 48.45% | 780 |
C商品 | 4,000 | 48.78% | 9.33% | 8,200 | 4.37% | 280 |
D商品 | 3,000 | 27.27% | 7.00% | 11,000 | 5.86% | 600 |
E商品 | 500 | 26.32% | 1.17% | 1,900 | 1.01% | 200 |
F商品 | 200 | 8.70% | 0.47% | 2,300 | 1.22% | 120 |
G商品 | 80 | 13.33% | 0.19% | 600 | 0.32% | 24 |
H商品 | 50 | 11.11% | 0.12% | 450 | 0.24% | 3 |
I商品 | 30 | 7.89% | 0.07% | 380 | 0.20% | 2 |
合計 | 42,860 | 22.82% | 100% | 187,830 | 100% | 2,359 |
上記の事例では、粗利益額をもっとも重視した結果、売上がいちばん大きなB商品でも貢献度は2番目となりました。またC商品は、売上シェアは小さいのですが、粗利率がダントツに高く、単価は低くて販売しやすいので、重点商品として強化することになりました。
さらに、粗利・売上シェアともに低く、販売個数も少ないG・H・I商品については取り扱いをやめることに。こうして現状を分析・把握したうえで各商品の貢献度・成長性などを加味して戦略を決め、全社員に公開、共有し、実行します。
戦略3:生産体制の確立
この戦略は主に製造業、メーカーに必要となる戦略です。
ここでも「10カ年事業計画」がベースになります。「10カ年事業計画」を通して当該年度の売上目標と粗利益目標が明確になっているはずなので、現場ではこの目標達成を可能にするための体制づくりをしておかなければなりません。
戦略が功を奏して受注が大幅に伸びたものの、生産や原材料の調達に遅れが生じ、クレームやキャンセルにつながってしまったという話をよく耳にします。目標を上回る受注が舞い込んできたときに備えて準備をしておかないと、利益を取り逃がしてしまうだけでなく、信用を失ってしまいかねせん。
売上目標は達成する前提で考えておき、必要な準備をしておきましょう。
自著『小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方』にて、今回ご紹介した商品戦略を含め、中小企業でそのまま使える20の戦略メニューをご用意しています。20の戦略から選んで実行するだけですので、ハードルがぐっと下がります。ぜひお手にとってお読みください。
おわりに
以上、中小企業で使える3つの商品戦略について解説しました。自社の商品やサービスの何が売れていて、何が広く顧客に受け入れられていないか。よく分かっているつもりでも、あらゆる面から数値化してみることで、分かることがたくさんあります。さらに魅力的な商品やサービスを世に送り出すため、今後何が必要になるのかを社員とともに考えてみませんか。