リーダー・社員を育てる「経営計画」の8つの運用ポイント
「いい人材が入ってこない」「新しく社員が入ってきても、すぐ辞めてしまう」などと悩んでいる経営者様は多いと思われます。「いい人材」を獲得することよりも、今いる社員やリーダーをしっかり「育てる」ことに力点を置いてみませんか。ポイントは、「経営計画」を育成の軸にすることです。人材育成に役立つ「経営計画」の運用法を解説します。
経営計画の作り方の記事をまだご覧になっていない方は、下記の記事から読まれることをおすすめします。
本記事の内容は拙書「小さな会社は経営計画で人を育てなさい」でより詳しく解説しています。書籍では一から経営計画の作り方と運用法を学べます。
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3つのPDCAをまわすことで社員は成長する
では経営計画で人材を育てる方法について解説します。実は、経営計画で成果をあげるには「PDCA」がカギとなります。まずはそのPDCAの基本プロセスを確認しておきましょう。
人材の育成は「3つのPDCA」をまわすことで実現します。「アクションプラン」「個人アクションプラン」「評価制度」の3つのPDCAです。
企業がまわすべきPDCAの内容についてご紹介した後、「アクションプラン」「個人アクションプラン」「評価制度」の仕組みについてそれぞれ解説します。
企業がまわすべきPDCAとは
「アクションプラン」「個人アクションプラン」「評価制度」の詳細は後述しますが、まずここで「経営計画」で成果を上げるうえでカギを握る「PDCA」とその基本的プロセスについて確認しておきましょう。
PDCAは、「PLAN=計画」「DO(実行)」「CHECK(検証)」「ACTION(改善)」と説明されることが多いものです。しかし、組織として成果を得ようとすると、これだけの理解では難しいでしょう。
そこで、会社組織の中でまわすと考えたとき、PDCAの進め方をわかりやすく説明すると、次のようになります。
よく考えて実行計画を組み立て〈P〉
しっかりと実行し〈D〉
結果を検証したうえで〈C〉
それをもとにやり方や方法に修正や新しいものを加え、さらに高い精度を目指して実行する〈A〉
実際に業務で使う言葉としては、例えば次のような言葉が当てはまります。
- 〈P〉実行計画、企画、活動計画、プランニング、新しい試み、仮設、意思決定、判断、選択、施策
- 〈D〉実施、実行、実践、行う、推進
- 〈C〉効果検証・測定、評価、総括、振り返り、確認、見直し、原因究明
- 〈A〉改善、やり方の見直し、対策、進化、再設計
PDCAは学習のサイクルです。数多くまわせばまわすほど、業務や仕組みの質が高まり、社員は成長できます。そして言葉の定義をあらかじめ広げておけば、理解が深まりPDCAの推進が加速するはずです。
アクションプランの仕組み
「アクションプラン」とは、企業の戦略を推進するための詳細な計画です。最終的に成果を出すため、具体的な実行項目を設け、手順を定めていきます。
アクションプランは、経営計画を実現するための取り組みです。よって経営計画を作成することから始めなければなりません。アクションプランの詳細は、以下の記事をご覧ください。
「個人アクションプラン」の仕組み
「個人アクションプラン」とは、グループで行うアクションプランを社員一人一人の役割に落とし込むものです。個人アクションプランではリーダーと部下の間でPDCAをまわします。主体的にまわすのは社員本人ですが、CHECK(効果検証)の段階でリーダーが上司として関わります。
詳細については後述しますが、PDCAのまわしかたも含めて以下の記事に具体的に書いてあるため、参考にしてください。
「評価制度」の仕組み
「評価制度」とは、いうまでもありませんが、人事評価のための制度のことです。ただし、査定のためだけの制度ではありません。アクションプラン、個人アクションプランを推進するためにはどのような人材を必要とするかが落とし込まれており、望まれる人材に近づけば評価が高くなり、まだまだ必要な面があれば改善を促す、人材育成のための仕組みです。
つまり評価制度は、人材を育成するためのものであり、また会社の経営計画を達成させるためのものなのです。経営計画と連動させて運用することで初めて、人事評価制度は本来の効果を発揮できます。
評価制度の作り方について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
リーダーを成長させる戦略運用のサイクル
アクションプランは、戦略を推進し、成果を出すための仕組みです。成果に結びつけるためには、ただ決めたことを実行するだけでは十分ではありません。必ずPDCAのサイクルをまわす必要があります。
そして、このPDCAサイクルを、社員のまとめ役であるリーダーがまわすことによってリーダー自身が学習し、成長していきます。アクションプランの運用サイクルは、以下の通りです。
- PLAN(計画)…アクションプラン策定
- DO(実践)…アクションプラン実行、推進
- CHECK(効果検証)…アクションプラン検証、評価
- ACTION(改善・見直し)…アクションプラン改善
それぞれ解説します。
PLAN(計画)…アクションプラン策定
アクションプランとして戦略を実行、実現するために何を行うのかを決めます。そして成果指標や推進手順、担当者、推進責任者を決定しましょう。最後に、具体的なスケジュールへと落とし込みます。
DO(実践)…アクションプラン実行、推進
担当者であるリーダーに、推進スケジュールに基づいて実行に着手してもらいます。メンバー以外の社員に協力してもらわなければ進めることが難しいアクションプランも少なくありません。事前にどのような作業が必要で誰にやってもらうのか、新しいデータや情報を収集するための方法など、アクションプラン担当者が自ら考え、新しく着手しなければならないことがどんどん出てきます。
リーダーがこういった経験をすることにより、戦略を実行推進できる真のリーダーとして成長していきます。
CHECK(効果検証)…アクションプラン検証、評価
会議やミーティングを必ず毎月1回以上行い、とりまとめレポートに沿って討議します。司会や議事録担当者を決め、取り組み状況の報告、予定通りに進められなかったことに対するアドバイス、報告の記録等を行いましょう。
アクションプランの効果検証のポイントは、報告だけで終わらせないことです。担当者から「予定どおりに進んでいます」と、無難な報告があると、司会はそのまま次のアクションプランヘ進めがちです。しかし、そういう報告をする人ほど実は問題を抱えている場合が多いものです。
そのようなことを避けるために「アクションプラン推進レポート」を活用しましょう。事前にアクションプランの進捗についての気づきや課題、共有事項を、リーダーから記入して提出してもらい、司会者が会議前に見ておくと、良い討議が可能になります。
ACTION(改善・見直し)…アクションプラン改善
アクションプランの改善・見直しのポイントは、必ずプラスアルファを加えてみるという点です。プラスアルファにより、仕事の質のアップを狙います。
そのためにはアクションプランの担当者が「変えてみる」「加えてみる」「やめてみる」という視点で、何か1つでも違いを作り、同じことを繰り返さないことがポイントです。そして、前回の改善点がどう成果につながったかについても、効果検証でチェックしましょう。
個人アクションプランで全社員が経営計画を実践する
「アクションプラン」の次は、「個人アクションプラン」の実践です。アクションプランを社員全員の仕事に落とし込み、個人アクションプランのPDCAをまわしていきます。
アクションプランではPDCAのサイクルをまわすことでリーダーが成長しますが、個人アクションプランでは、リーダーと社員双方の成長を実現することができます。
個人アクションプランの運用サイクルは、以下のようになります。
- PLAN(計画)…個人アクションプラン策定
- DO(実践)…個人アクションプラン実行、推進
- CHECK(効果検証)…個人アクションプラン検証、評価
- ACTION(改善・見直し)…個人アクションプラン改善
それぞれ詳しく解説します。
PLAN(計画)…個人アクションプラン策定
会社のアクションプランにもとづいて、社員一人ひとりがどのようなことに取り組むのかを明確にします。個人レベルでは、適正な項目や内容を設定するのは難しいため、特に最初はアクションプラン会議のメンバーであるリーダーと一緒に作成するのがよいでしょう。
個人アクションプランとして、何に取り組めば良いかを実行項目として定めたら、成果指標化してどのような成果を目指すのか、明確にします。会社のアクションプランより数値化するのが難しいケースもありますが、できるだけ数値に落とし込んだ指標を設定しましょう。その後、手順を番号で明記します。
DO(実践)…個人アクションプラン実行、推進
推進手順にもとづいてアクションプランを実行してもらいます。最初は計画したことがうまく実行できない場合もあるでしょう。しかし、こうして社員全員が考え、工夫することで高い成果が上げられるようになります。また業務の質が向上するため、結果として社員の成長につながっていきます。
CHECK(効果検証)…個人アクションプラン検証、評価
毎月振り返りチェックを行います。本人が前月分の成果指標の達成度をリーダーに伝え、また全社、部門で共有した方がよい情報、推進・達成状況をふまえて、より早く成果に近づけるための改善点も一緒に伝えます。
提出期日は、遅くとも毎月5日くらいまでに設定した方がいいでしょう。
ACTION(改善・見直し)…個人アクションプラン改善
リーダーと本人が面談を行います。部下が成果指標の達成度をリーダーに伝えてから、3日以内程度で行うのがいいでしょう。面談は以下の順序で進めます。
成果指標の確認
↓
本人から取り組み状況の報告
↓
リーダーから推進支援のアドバイス
このとき、リーダーは責めたり問いただしたりせず、部下の自主性を引き出すことに努めましょう。また、15分以内で終えるのが、面談をコツコツ続けるポイントです。
社員の成長を加速させる経営計画の8つの運用ポイント
経営計画は、以下8つの仕組みで運用していきましょう。経営計画を意識、浸透させる仕組みが整えば、人材の成長を加速することができます。
1:経営計画は「ビジョン実現シート」にまとめる
経営計画は1枚のシートにまとめましょう。この1枚のシートを、私は「ビジョン実現シート」と名付け、フォーマット化しています。シートは以下から無料でダウンロードいただけます。
1枚のシートにまとめる理由は、経営計画で何が目指されているのか、社員はどんな目標を目指していけば良いのかが具体的に、ひと目でわかることが必要だからです。常に目に触れさせることで、社員が経営計画を形式的に知っているというだけでなく、理解、浸透させ、実践に結びつきやすくするのが狙いです。
冊子形式のものでは、こうはいきません。最初のうちは読まれることはあっても、しばらくすると、ロッカーや引き出しの中にしまわれ、開かれることがなくなってしまいます。
2:経営計画といつも一緒に過ごす
「ビジョン実現シート」に経営計画をまとめたら、社員全員が常にシートを目にする状態にあるよう工夫します。具体的には、3つの方法があります。
1つめは、カード形式にして全社員に持たせる方法です。リッツ・カールトンホテルが最高のサービスを提供するためのツールとして活用している、有名な「クレドカード」をイメージしてください。1ページが名刺サイズのものを三つ折で8ページ、あるいは二つ折で4ページの構成にするのがいいでしょう。
2つめは、シートをデスク周りの見える場所に社員各自が貼っておく方法です。打ち合わせスペースなど、多くの社員が使う場所にも掲示してください。
3つめは、シートをそのままスケジュール帳などに挟んで持ち歩くことです。手帳を開いたときすぐに「ビジョン実現シート」が目に入ってくる状態が理想です。文字が縮小されて読みづらくならないよう、工夫しましょう。
3:理念等を暗唱させる
「経営理念」「基本方針」「行動理念」「人事理念」は、全社員が暗証できる状態を目指します。これらの内容が頭に入っている状態でなければ、常に実行できる状態にはならないからです。
具体的には、朝礼、各会議・ミーティングなどの場で唱和します。最初はクレドカードなどを見ながらでよいのですが、最終的には暗唱できる状態を目指しましょう。
4:理念テストを行う
理念テストとは、「経営理念」や「行動理念」を暗記しているかチェックテストを行うことです。「基本方針」や「行動理念」の内容を変更したり、新しい社員が入ったりした場合は、そのつどチェックテストを行ってください。
「丸暗記するだけでは効果はない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、文言すべてが頭に入っていれば、いつでも瞬時に「行動理念」と照らし合わせてものごとを考え、比較できるようになります。その結果、「理念」にそった行動をとれる機会が増えていきます。
5:「理念ミーティング」を実施する
次の3つを社員同士で報告し合う場を持ちましょう。
- ①自分自身が「経営理念」や「行動理念」にそって行動した具体的事例とその成果、お客様からの声など
- ②他社の事例のなかで、自社の理念につながるもの、参考になるもの
- ③自分がプライベートで体験したサービスや購入した商品で、自社の理念に参考になるもの
会社の規模や業態にもよりますが、社長も参加し社員全員で行うのがベストです。難しい場合は、店舗や営業所ごと、部署ごとの開催でかまいません。少なくとも毎月1回開催、時間は1時間程度とれるとよいでしょう。
時間の確保が難しい場合は、10分でもよいので朝礼などの場で毎日行い、トータルでの量を確保してください。
6:社長がメッセージを発信し続ける
理念の浸透のために大事なのが、社長自身がメッセージを発信し続ける仕組みです。研修や会議、朝礼、社内報などでは定期的に継続して発信し続けましょう。
具体的には「理念を通じてどのように顧客や地域、社会に貢献するのか」や、「やりがい、働きがいをもってもらうためにどんな会社にするのか」「自社の理念が必要とされる時代背景や環境、世の中の出来事」「創業時の考え方」などを継続的に発信します。
7:浸透・実践度を見える化する
理念や方針が社員に浸透しているかどうか、アンケートを実施して確認します。理念や目標を項目ごとに記し、それぞれ「実践できていると思うか」という問いかけを設定し、回答は「そう思う」「ややそう思う」「ややそう思わない」「そう思わない」などの選択肢から選んでもらいます。
これによって、経営計画のどの部分が浸透していて、どこが不十分なのかひと目でわかります。社長が一番知りたいデータといえるでしょう。
部署や店舗別に結果を分析することで浸透、実践ができていない部署や店舗が明確になり、そのリーダーを指導したり、社長や幹部が対応したりするなど、具体的な対策がとれます。アンケートは期末近くに、毎年実施してください。
8:「経営計画発表会」で毎年「ビジョン」を共有する
「経営計画発表会」は、社長と全社員が「ビジョン」を共有する場です。経営計画を打ち立てたときはもちろんのこと、年1回の節目のイベントとして全社員参加で毎年開催するのがおすすめです。
開催時期は、年度末にできるだけ近い日程で行うか、期首に行うかを決めておくとよいでしょう。期末の忙しさや業績数値がどのくらいで把握できるかなどでタイミングの違いはあってかまいません。毎年の開催日程を決めておくと、社長を含めた全社員がそこに向けて動きやすくなります。
発表会の後半には、全社員が参加する懇親会を設けましょう。「経営計画発表会」そのものは厳粛な雰囲気で開催します。これに対して、懇親会は和やかな雰囲気で開催することによってメリハリをつけます。食事やアルコールもとりながら前半の「経営計画発表会」に対する思いや本音を聞き出す場としても活用します。
経営計画発表会の具体的な実施方法や成功のポイントは、以下の記事で詳しく解説しています。
おわりに:経営計画が人材育成の鍵になる
経営計画に沿ったアクションプランを個人にまで落とし込み、PDCAをきっちりまわすことで、社員は目標に貢献できる人材へと確実に成長していきます。経営計画は、単に会社の数値目標ではありません。経営の全ての礎であり、会社を躍進させるための最も大事な仕組みなのです。
まずは会社の社員やその家族のため、そして会社とお付き合いがある取引先や関係者のため、地域社会のために、早速取り組みをスタートさせましよう。あなたの決意と第一歩が、中小企業を元気にし、日本の未来を明るく照らすきっかけになることは間違いありません。