人事評価制度の失敗を招く5つの誤解
なぜか人が辞めてしまう、社員がなかなか成長しない……。人材に関わる悩みを抱えているなら、人事評価制度にテコ入れしましょう。人事評価制度を、たんに「賃金を決めるためのもの」と考えているなら、それは間違いです。人事評価制度の失敗に繋がる誤解をひもといたうえで、人材が活き活きと成長する本来の意味の「人事評価制度」へと改革するためのノウハウを解説します。
人事評価をめぐる5つの誤解
「社員はお金で働くもの」「面談は評価を伝える場所」「制度への不満が出たらすぐ取り下げればよい」といった考え方は、どれも間違いです。長年、人事評価制度のコンサルティングを続けてきた私が、まずは皆さんが陥りがちな「人事評価制度への誤解」について解説します。
誤解1:社員はお金で動かせる
「社員はお金で動くものだから、人事評価制度は社員のやる気をお金でコントロールするためのものだろう」と考えている経営者の方も多いかもしれません。しかし、それは大いなる誤解です。そのような考え方では、お金のために働く社員ばかりが生まれてしまいます。
結果主義的な成果主義は、経営者にとってとてもわかりやすく魅力的ですが、その一方、大きな問題を生み出してしまう要因にもなります。それは、社員に「結果がすべて」と思い込ませ、働く目的が、「お金を稼ぐこと」になってしまうというものです。
すると、どういうことが起こるでしょうか。仕事に対して純粋な志を持って入社した人間でも、お金のために動く社員に変わってしまいます。「成果主義」というニンジンを鼻先にぶら下げられたとたん、大事なものを見失ってしまうのです。
こうなってしまうと、他社から高い給与で誘われたときに、喜んで転職します。優秀な社員から会社を離れていくことにもつながりかねません。
誤解2:評価は賃金に結びつけなければならない
良い評価を与えたら、報酬を必ずアップさせなければならない、出世させなければならないと考えているなら、それは間違いです。なぜなら、「給与が上がるのは嬉しいけれど、責任ある立場には立ちたくない」と出世を拒むケースが、特に最近は散見されるためです。
しかしそういった社員たちは、むしろ責任感があるからこそ出世をためらうとも考えられます。そういった社員を、「現状維持」でも「昇進」でもない第3の道を用意して輝かせた経営者の方を知っています。むやみに出世させるのではなく、人事に多様性を持たせ、柔軟に対応することが人材育成には必要ということを学べるケースです。
賃金への反映は、会社の経営目標を達成するためのプロセスの1つに過ぎません。評価制度を賃金と切り離して運用することで、「評価は人材育成のための仕組みである」ことを社員に徹底して浸透させることができます。評価制度は、人材を社会人としてレベルアップさせ、また適材適所へと導くためのものであると捉えましょう。
誤解3:フィードバック面談で評価を伝える
ボーナス支給時などに全社員の「面談」を行っている企業も多いでしょう。その面談の目的をどのようにとらえているでしょうか。「評価面談だから、評価を伝えるのが面談の目的でしょう?」とお答えになるのは当然で、もちろん、評価を伝えるのも、面談の1つの目的です。
しかし、忘れてはならないことがあります。それは、面談がコミュニケーションの場であるということです。
面談は、公式に上司と部下が話し合える貴重な場です。1対1のコミュニケーションをするなかで日頃の不安や不満を解消し、評価を伝えた上で「ここをもっと、こうしていこう」とステップアップのためのヒントを伝えることのほうが、明日も、明後日もずっと気持ちよく働いてもらうために必要だとは思いませんか。
そして、面談には社員のベクトルを微調整していくという働きもあります。社長が自ら面談で今後のビジョンや会社としての課題を社員に伝えることは、会社の方向性を再確認してもらうことに繋がります。結果、社員のベクトルを揃えることが可能になります。
このように面談は、会社と社員との繋がりを強固にする貴重な機会なのです。
誤解4:人事評価制度は規定やルールを守って行う
一般的に、「一度つくった人事評価制度は、数年は変えない」という企業が多いでしょう。人事考課規定や就業規則に設定したことは、「変えてはいけない」という意識があると思われます。しかし、全社員の役割を100%明確にし、正しい評価結果が得られる人事評価制度を最初からつくるのは到底無理です。
最初につくる人事評価制度は、5割から6割の完成度でいいと私は考えています。内容を改善していくことを前提としてつくるのです。そして初めは賃金に連動させず、トライアルとして運用したほうがはるかに効果的です。
「この評価項目は必要ない」「何が評価基準となるのか分かりにくいから表現を変えよう」と、改善をどんどん進めるほど、成果は高まっていきます。また、評価制度の納得度アンケートを実施し、評価される社員も制度づくりへ参加すると、より実態に合った評価制度へブラッシュアップされていくでしょう。
誤解5:不満、反発が出たから悪い制度だ
人事評価制度に限らず、新しい仕組みを入れると、必ずといっていいほど不満や反発が出てくるものです。しかし、社員からの反発があまりに多いからといって、「これはうちの会社には合わない」と改革を諦めてしまっていては、永遠に社員が活躍できる会社を実現することはできないでしよう。
反発は、改革を阻害する要因ではありません。むしろ、不満や反発が出たら、会社を良い方向に変えていくための好機ととらえるべきです。不満は往々にして新しい制度が運用されたことによって生じたものではなく、すでにあったものが表面化したものです。隠れていた不満が表に出てきたことを喜びましょう。不満が明確になって初めて、対処のしようがあるのですから。
もし社員から制度に対する不満が出てきたら、制度の目的を正しく理解してもらうために社員に働きかけることです。全社員が目的を一つにし、ベクトルを合わせて邁進していこうとしているのだということを確認できれば、不満は解消していきます。
かえってその不満や反発を活かした評価制度へと、徐々に近づけていけばいいのです。すると社員の納得度が高まり、「会社は自分たちの意見をきちんと聞いてくれる」という気持ちを、社員に芽生えさせることができます
人事評価制度は経営計画と連動させて運用する
人事評価制度に対する誤解は解けたでしょうか。人材一人ひとりを大切に育成するためには、賃金を決めるための評価制度ではなく、人材育成のための評価制度へと改革することが必須となります。社員の成長が加速する評価制度をつくるには、会社の経営計画と連動させて運用することが重要になります。
経営計画と連動させた評価制度を、私は「ビジョン実現型人事評価制度®」と名付けて提案しています。まずは会社の「あるべき姿」をイメージすることに始まり、経営計画書をつくり、そこから経営戦略を考案し、その戦略を実現させるためにどんな人材が必要かを考えてゆくのが、主な作成の流れです。
経営計画書や実際の制度の作り方、そしてビジョン実現型人事評価制度®の作り方は、以下の記事にまとめてあります。ぜひ参考にしてください。
なお、私のコラムでは、評価制度作りのためすぐに使えるテンプレートを無料配布中です。仕組みづくりのヒントや運用方法といった、具体的な展開方法についてもさまざまなコラムで紹介しています。ぜひご一読ください。