上司と部下のコミュニケーション不足問題、「育成面談」で対話不足解消と成長支援を同時に実現
上司と部下のコミュニケーション不足に悩んでいませんか。「プライベートを大事にする風潮の中、感染症対策もあってなかなか部下を飲みに誘えない」「テレワーク中心になってから会話が少なくなった」とお困りなら、「育成面談」を導入しましょう。対話不足が解消するうえ、成長支援も同時に実現できます。本記事では、育成面談を導入する効果、実施する際のポイントをお話しいたします。
上司と部下のコミュニケーション不足問題
円滑に仕事を進めるためにはコミュニケーションが不可欠ですが、昨今、上司と部下のコミュニケーション不足が問題となっています。「退職の前に読むサイト」編集部が調査を行ったところ、「上司とコミュニケーションを取る頻度」は「毎日取る」が45%、「ほとんど取らない」が42%という結果になりました。
参照:「上司と部下のコミュニケーション不足が課題!?社会人の42%が上司とコミュニケーションをとらないと回答!コミュニケーション不足がもたらす課題とは?」
もともと、部下とのコミュニケーションは休憩室での雑談や、仕事の後に食事や飲みに行ったり、ダラダラ残業のなかで話をしたりといったことで行ってきた人も多いでしょう。しかし、仕事とプライベートの切り替えが重視され、効率化が求められ、感染症対策のためできるだけテレワークをといった社会要請の中、どんどん会話の場が少なくなってきました。
しかし、上司と部下とのコミュニケーションは、お互いの仕事効率をアップさせたり、モチベーションを上げたりするための大切な「仕事」の一つです。スキマ時間を見つけて会話するのではなく、コミュニケーションを「仕事」の中に位置づけてみませんか。「育成面談」が、それを可能にします。
「育成面談」で上司と部下のコミュニケーションの場をつくる
「育成面談」というと、給与査定について伝える場であると思っている人も少なくないでしょう。しかし、育成面談は、評価結果を伝えるだけの場ではありません。より重要なのは、次期の課題や目標を明確にし、本人と上司で共有することです。
「育成面談」で上司と部下が定期的にコミュニケーションの場を持つことで、成長段階について共有認識を持ち、成長目標を具体的に設けることができます。「育成面談」は、「成長支援の場」として位置づけましょう。
「育成面談」は社員の成長支援の場
「育成面談」を社員の成長支援の場とするには、被評価者が「この面談はあなたをただ評価するだけの場ではない」「次期に向けて課題点や目標を明確にし、頑張ってほしいから面談するのだ」というメッセージを打ち出さなければなりません。評価を伝えたら必ず本人の意見を引き出し、納得を得た上で次期に向けた話に進みます。
また、基本的に面談は被評価者と評価者で行いますが、必要な場合には社長や人事担当者を同席させるのがお勧めです。社長や人事担当者と面談するとなると、社員は萎縮してしまうかもしれません。しかし、この「萎縮してしまう」こと自体を変えていかなければ、会社全体のコミュニケーション不足が解決することはないでしょう。
育成面談を定期的に行うことで、被評価者と評価者、上司と部下、社長と社員といった垣根を低くして、社員の立場からも経営側に堂々と意見を言えるような土壌を作りましょう。
「育成面談」を実施する際の3つのポイント
「育成面談」実施時には、次の3つのポイントを意識してください。
「育成面談シート」で上司と部下の信頼関係を築く
評価する側となる上司は、「育成面談」を行う前に、必ず「育成面談シート」を作成しましょう。これをきちんと作成しておくことが、部下の納得度と成長に大きく影響します。
また、「育成面談シート」を使うことにより、頭の中で育成面談の流れをシミュレーションしておけば、効率的に面談を進めることができます。シートをきちんと作成することで、部下は「自分のために時間をかけて考えてくれた」と、上司への信頼感を高めるでしょう。
「育成面談シート」の作り方について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
面談の成果が高まる!部下との信頼関係を強固にする「面談シート」の作り方
「チヤレンジシート」で 成長目標の実行計画を練る
「育成面談」で決める「成長目標」を、具体的な実践計画に落とし込むために、「チャレンジシート」を作ります。「チャレンジシート」を作ることによって、部下の将来のキャリアプランを明確にし、目標をはっきり絞り込み、目標の達成レベルとそのプロセスを明確にすることができます。
「チャレンジシート」の作成方法については、以下の記事を参考にしてください。
たった3項目で社員の成長を爆速化!「チャレンジシート(目標管理シート)」の作り方【目標例付き】
「チャレンジ面談」を実施する
「チャレンジシート」を効果的に運用するために、「チャレンジ面談」を行いましょう。「チャレンジ面談」は、1ヶ月に1度、進捗を確かめるために行う短い面談です。「チャレンジシート」を作っただけでは、何も対策を行わず、評価の時期になって必要な部分を埋めて提出するという形式的な運用になる恐れがあります。これを防ぐための面談です。
月初めに部下本人がチャレンジシート内の「自己コメント」欄に前月の実施状況と反省、改善点などを記入し、上司に提出します。上司は「上司コメント」欄に推進のためのアドバイスなどを記入したうえで面談を行い、目標達成へのアドバイスを行います。
面談は一人10分程度の短いものとします。このコミュニケーションによって上司は部下の成長度合いを継続的に見守ることができます。部下の方も、見守られているという安心感と、「見られている」というほどよい緊張感を得ることができ、モチベーションの持続につながります。
月に1度だけでも、10分間じっくり面と向かって話す場があることで、お互いの現状をきちんと確認、理解することができるでしょう。なかには、「上司に相談する時間が欲しい」と渇望する社員もいます。そういった社員には、月イチの10分間が何よりの安心材料になるでしょう。
育成面談でコミュニケーション改善&モチベーション向上した事例
最後に、育成面談で社内のコミュニケーションが改善し、社員のモチベーションが向上した事例をご紹介します。
電動工具中心のリサイクルショップを6店舗展開する会社は、人材育成が思うようにいかず、成長が止まってしまっていました。「自分たちの頑張りを会社が認めてくれない」「忙しい現場をわかってくれていない」という声が現場から多く上がり、スタッフがやりがいを感じられないままお客様と接していたのです。
スキル面よりモチベーションが会社の成長を阻害しているということははっきりしていましたが、社長がいろいろ模索するもなかなか有効な手立てが見つかりません。社長は勉強を重ね、私の著書を読んだことで初めて「経営理念を掲げ、しかも人事評価制度と連動させることが大事」と気づきました。しかし「理念なんて難しいことをいわれても」「評価業務が複雑で、とてもやる気になれない」と店長らから総スカンを食らう始末でした。
そこで社長は、人事評価を行った後の育成面談に自ら同席するようになりました。一人ひとりに、「この人事評価制度はみんなの幸せを実現するためのものなんだ」「会社にとってなくてはならない改革だ」「絶対に活き活きとしたやりがいのある組織が実現できる」と、自分の言葉で丁寧に理解してもらえるまで伝えていきました。
その甲斐あって、店長やスタッフも回を重ねるごとに自分の課題へ前向きに取り組むようになっていきました。そこで社長はコミュニケーションの改善が業績回復の一番の要因と気づき、育成面談を通じて社長と店長、店長とスタッフそれぞれのコミュニケーションの場を毎回持つようにしたのです。
こうして、人と人との意思疎通が図れたことが、課題としてあったスタッフのモチベーション向上に大きな効果をもたらしました。社長の熱意が、度重なる面談によって社員にしっかり伝わったのです。
この会社は最近、毎年120%前後の成長を実現しています。手元余裕資金を確保することによって従来の半分以下の借り入れで出店が可能となり、商品や設備、人材などへ積極的に投資できるようになりました。無事、成長のスパイラルに入ったといえるでしょう。
おわりに
上司と部下のコミュニケーションは、たんに業務を円滑に回すため、会社の雰囲気をよくするためだけのものではありません。会社の成長に必要不可欠なものという認識を持ち、戦略的にコミュニケーションの場を設けましょう。ただし、育成面談の制度を作っただけで実施されなければ意味がありませんので、必ず人事評価制度の運用とセットにすることが大事です。
人事評価制度の作り方はこちらの記事をご参考ください。
ビジョン実現型人事評価制度®・経営計画書の作り方総まとめ
「育成面談」や「チャレンジ面談」が定期的に行われれば、社員のモチベーションが高まり、チームの結束力も強くなってくることが期待されます。「社員間のコミュニケーションは業務外時間にやればよい」などと軽視することなく、業務時間の中に時間を確保することで、会社を強くしていきましょう。