中小企業の生産性が下がってしまう2つの大きな要因|人事評価制度・賃金制度のノウハウ | 日本人事コラム

中小企業の生産性が下がってしまう2つの大きな要因

中小企業の生産性が下がってしまう2つの大きな要因

大企業に比べ、中小企業は生産性が低いといわれています。一体なぜなのでしょうか。私は、中小企業が組織のパワーを活用しようとしていないことに原因があると考えています。中小企業の生産性を劇的に上げるには、戦略の力が必要です。成長する組織をつくりあげたいと考えている中小企業の経営者の方は、ぜひ最後までお読みください。

生産性を導き出す公式

生産性を導き出す公式は、次の通りです。

産出量(アウトプット)÷投入量(インプット)

産出量(アウトプット)および投入量(インプット)には、複数の要素が当てはまります。産出量であれば生産数量、売上高、提供個数、顧客獲得件数など。投入量であれば、労働時間、従業員数、投資額、(設備などの)稼働時間などです。

生産性で国際競争力や企業の生産性を比較する場合、労働生産性という指標が一般的に使われます。労働生産性は、従業員一人あたり付加価値額として、「付加価値÷従業員数」で算出されます。

また、付加価値額は以下の数式で算出されます。

付加価値額=営業純益(営業利益-支払利息等)+役員給与・賞与+従業員給与・賞与+福利厚生費+支払利息等+動産・不動産賃貸料+租税公課

しかし、中小企業がこの計算式で労働生産性を示しても、数字の意味を正しく理解できる社員は少ないでしょう。どこを改善すれば生産性向上につながるのか、把握するのも困難です。

そこで私は、中小企業の生産性を以下の計算式で算出しています。

粗利益額÷社員数

すなわち社員一人あたりの粗利益額を「生産性」として、その成長目標を定めて組織改革に取り組むという考え方です。まずは、あなたの会社の現状の生産性、社員一人あたりの粗利益額がいくらなのかを算出し、把握してみてください。

生産性が下がってしまう2つの要因

中小企業が生産性を伸ばせない大きな要因として、以下の2つが考えられます。順にご説明しましょう。

社長が1人で会社を動かす

ここでひとつ質問です。社長が1人で会社をマネジメントしていませんか?

社長が会社の方向性や目標を定め、戦略を考えてリーダーに指示を出す。社員の役割を決めて実行管理をしながら現場に口を出す。社員全員の評価を社長が行い、賃金を決める。こんな事態に陥っていないでしょうか。

文章で示したりルール化したりするのではなく、全て社長の頭の中で重要事項が決定し、口頭でやりとりが行われていると、会社を動かす仕組みやルールが他の社員と共有されません。だんだん社員が増えていくと生産性に限界が訪れ、いずれ下がっていってしまいます。人が1人で管理し、コントロールできる限界を超えてしまうためです。

社員3人の組織と30人の組織を、あなた1人でマネジメントしたらどうなるか想像してみてください。どんな人でも、対象が3人であれば全員の仕事ぶりをおおむね把握できるでしょう。しかし30人となると、全員の仕事をきちんと把握できる人はまずいません。

ではどうすればこの状況を変えられるのか?解決方法は以下です。

仕組みで組織をマネジメントしよう

社員が増えてくると目標や役割を文章やデータで示したり、手順書やルールを決めてリーダーに管理指導を任せたりしなければ、組織全体を適正にマネジメントできません。仕組みを介して組織を動かす構造にしないと、統制がとれなくなるのです。

私はコンサルタントとして多くの中小企業の社長と接してきました。社長が自ら組織を動かせる限界値は、社員数10~15名といっていいでしょう。この規模を超えてしまうと、一体とならねばならないはずの組織が「集まって活動しているだけ」になってしまいます。組織の本来のパワーが得られないのです。

そこで、属人的マネジメントをやめ、仕組みマネジメントへ移行することをおすすめします。生産性を高められない大きな要因の1つとなっている属人的マネジメントから脱却し、仕組みで組織をマネジメントできる環境を作るのです。組織が一体となって生産性を高めるために、仕組みマネジメントへ移行しましょう。

もぐらたたきゲームになっている

中小企業の社長は、手をつけなければならない多くの課題を抱え、悩んでいます。賃上げ対応や人手不足に対する人材確保、人材教育、原材料高、営業力や集客力強化、IT・デジタル化、後継者問題、資金の確保などなど。こうした課題に、どのように取り組んでいるでしょうか。

多くの社長は、社長自身が重要で緊急度が高いと判断した課題から解決に取り組んでいます。「それの何が悪いの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これが中小企業の収益力の伸びに限界を招いてしまう大きな問題なのです。

社長が、対象とする課題を選択肢、取り組むところからモグラたたきゲームは始まっています。このゲームの行方を追えば、きっと「これでは生産性は上がらない」とご納得いただけることと思います。

モグラたたきゲームの問題点1:社長独自の環境と気分で優先順位が決まる

社長は自社の経営や業績向上に役立てようと、さまざまなところから情報収集に努めていることでしょう。新聞や経済紙などの媒体。ニュースや経済番組などのメディア。インターネツトコンテンツや、ポッドキャストやSNSなどの情報。また、地域や経営者団体などの場で、人づてで情報を得ている人もいるかもしれません。

一方、こうしたところで話題となる経営課題やその解決策は、一時的な流行だったり、比較的多くの企業が悩むことを取り上げたりする場合がほとんどです。もしくは、社長本人の生活スタイルや行動パターンから得られた、かたよった情報の可能性もあります。

「同業者の多くが取り入れている」「○○に取り組んで大きく業績を伸ばした」と聞くと、「自社もやらないと乗り遅れてしまう」と焦って即取り入れてしまう中小企業の社長も多いものです。このような経緯で取り組みをスタートした経営課題が、自社にとって最善かつ早急に取り組むべき課題かというと、そうではない場合のほうが多いのです。

モグラたたきゲームの問題点2:ゴールを定めず計画もないまま取り組む

中小企業の社長が課題へ対処する場合、解決後の目標やゴール、目的を定めずに取り組む場合が大半です。そのため中途半端で終わってしまうか、一時的な成果しか得られないというケースが圧倒的に多くなってしまいます。

本来、自社の課題解決に取り組むのであれば計画的に取り組むべきです。社員を巻き込む改革であればなおさら、プロジェクトとして各メンバーの役割を決めて推進します。また、予定していなかった仕事が新たに加わるわけですから、年間スケジュールに落とし込んで社員に周知し進めるべきでしょう。

ところが、中小企業では社内改革や新規事業などを社長が突然スタートするケースをよく耳にします。何を目的にどういった目標を達成するのかをきちんと定めて、計画的に取り組むことで、大きな成果につながったり、ほかの領域で相乗効果が得られたりする場合があるので、非常にもったいない取り組み方をしている中小企業が多いのが実態です。

モグラたたきゲームの問題点3:次々に課題が出てきてしまう

取り組む課題の選択理由に根拠がなく、ゴールも計画もない。このような課題解決の進め方では、1つの課題をクリアしてもまた次の課題が出てきてしまいます。そしてまた次の課題が現れ……といった具合に、さまざまな経営課題に1つずつ対処していかなければなりません。

そうこうしているうちに、経済情勢の急変や災害、緊急事態など突発的な対処に迫られることがあります。また、以前解決した課題も古くなり、再度取り組む必要性が出てくるケースもあります。

つまり、1つ1つの課題が「モグラ」で、頭を出したモグラ(課題)を1匹ずつやっつけても、モグラたたきゲームのように次々に際限なくモグラが頭をもたげてきます。しかも、退治しそこなうモグラもたくさん出るので、数匹のモグラを撃退できたとしても、戦果(成果)は限定的です。

多くのモグラを撃退することができても疲れ果ててしまう、あるいは実際の経営課題はモグラたたきのように単純ではなく、複雑で難しいので途中であきらめてしまう社長もいます。その結果、生産性が下がり続け、優秀な人材は去っていってしまうのです。

戦略が中小企業の生産性を劇的に上げる

モグラたたきゲームの罠に陥らないためには、全ての経営課題に全社員が常時取り組むことが重要です。また、社長が経営課題を決めるのではなく、リーダーが主体的に課題を発見し、「戦略」を通じて部下をマネジメントしながら解決していく組織にしなければなりません。

そう、中小企業の生産性を上げるために必要なのは、戦略なのです。ここでは戦略とは何かを明らかにしたうえで、その役割や必要性について解説します。

戦略の定義

戦略は、目標を達成するための打ち手です。目標とは、自社が達成すべき将来の業績数値を指します。したがって、戦略のゴールは将来の数値目標の達成ということになります。企業は戦略の実行を通じて顧客を増やし、売り上げや収益を拡大し、成長できるといえます。

戦略の定義についてはさまざまな表現や捉え方があります。しかし中小企業ではとくに、「目標達成のための打ち手」とシンプルに伝えた方が、リーダーや社員は納得するでしょう。

戦略の役割

戦略の役割は「組織のベクトルを合わせること」と「リーダーを教育すること」の2つです。戦略を明文化することで、社員は会社がどんな目標を持ち動いていくのかが分かります。戦略を実行するのは社員ですから、社員の仕事の一部も戦略から決まることになります。

つまり、戦略を通じて目標達成に向け組織全体でやるべきことと、これに伴う仕事を示すことで、社員のベクトルを揃えることができるのです。ベクトルが揃えば業績目標が達成される確率は高まり、組織の生産性を向上させることが可能になります。

また、リーダーに戦略の推進を任せることで、リーダーには組織マネジメント力がつきます。残念ながら、中小企業にはマネジメント能力を備えているリーダーがほとんどいません。とくに管理職クラスの人材のマネジメント不足が、組織成長の足かせとなっている場合が多いのが現状です。

その原因はシンプルです。これまで学んでいないし、任されていないからです。戦略をしっかり実行する力がつけば、マネジメント力は自然に身についていきます。

組織のベクトルを合わせる方法については、以下の記事で詳しく紹介しています。

リーダーを育成する方法については、以下の記事で詳しく紹介しています。

戦略を明文化し組織を一体化させよう

戦略が文章化されておらず、目標へのプロセスが社長任せのままでは、行うべき仕事が揃わないばかりか、売り上げに影響し生産性も大きく損ないます。明文化されていないということは、指示や実行内容を口頭で伝えたり、確認したりしなければなりません。複数で共有しようとするとその都度必要な社員が集まったり、資料を作成したりする必要があります。

また、こうした中小企業では、戦略実行のプロセスはリーダー任せで全社的な進捗管理が行われません。つまり、日標達成を確認する1年や半年の頻度でしか進捗上の課題やトラブルが把握できない。しかも、どんなことがいつ起こったか記録を残している社員はまれですから、成功事例や改善事項も共有できないし、蓄積もされません。

こうした取り組み方が、いかに非効率で組織の生産性を下げてしまうかは容易に想像できるでしょう。これは逆に、戦略の明文化と実行のPDCAを仕組み化すれば、大きな成果が得られることを示しています

「具体的な戦略なんて考えたことがない」「忙しくて戦略を練る時間がない」という経営者の方は、ぜひ自著『小さな会社の人を育てて生産性を高める戦略のつくり方』を手に取り、内容をご確認ください。この記事では紹介しきれなかった、生産性が劇的にアップする戦略の作り方を詳しく解説しています。たったの60分で戦略を完成させる方法を公開しているので、ぜひ活用してください。

小さな会社の人を育てて生産性を高める戦略のつくり方
小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方

おわりに

生産性を上げたい中小企業の経営者の方は、社員の数が自分で直接マネジメントする範囲を超えていないか、一度考えてみましょう。「人」に頼らず「仕組み」に頼り、確固たる戦略にのっとって事業を進めていく時期を迎えているのかもしれません。

ご自身が、先代が、ご家族が大切に紡いできた事業を成長させ、今後も大きく発展していくためにも、戦略の重要性を把握しましょう。それは次世代を担うリーダーを育成するための第一歩にもなります。

この記事を監修した人

代表取締役山元 浩二

経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に「小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)「小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方」(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である「【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方」(あさ出版)を出版。累計14万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。

個人ブログ:https://jinjiseido.co.jp/blog/

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