部下の育成に必要な「3つのマネジメントスキル」の磨き方
マネジメントには、実務とは違うスキルが要求されます。「仕事はがむしゃらにやれるけれど、部下の指導は苦手」「部下のモチベーションを引き出す方法が分からない」と悩んでいるリーダーは多いでしょう。部下の育成に必要なのは、3つのマネジメントスキルです。人事評価制度の仕組みを使って、人材管理のスキルを磨きましょう。
部下の育成に必要な3つのマネジメントスキル
リーダーが部下を育成するにあたり、必要になるマネジメントスキルは、以下の3つです。
観察力
対象を細かく観察、分析し、事実を明確に把握することができる力です。いくら「報告・連絡・相談」が大事といっても、リーダーが受け身であり、報告を受けるままに指示していては、対応が後手に回ってしまいます。
個々の「報・連・相(ホウレンソウ)」を聞くだけでなく、部署の問題を包括的に捉え、また偏った報告に依存せず事実をしっかり観察する力が必要です。観察力によって、困難な問題も解決へと導かれます。
判断力
重要な判断を迫られたとき、一定の基準で正しい判断と決断ができる力です。どんなに話をよく聞いてくれる良い上司であっても、判断が不正確だったり、決断力がなく問題を先送りにしていたりしたら、現場は混乱します。
日ごろから「観察力」を使って現場をよく把握しておくことで、正しい判断、速やかな決断が可能になります。また、会社員の場合、判断のおおもとになるのが「会社の理念」や「ビジョン」、つまり社の方針です。社の方針を正しく知り、意識に浸透させているリーダーほど、正しい判断ができます。
目標設定推進力
部下の力量に応じた目標設定と、達成へ向けたPDCAを支援できる力です。PDCAとは、継続的な仕事の改善を行うための手法です。
Plan(計画)で部下の力量に応じた目標設定を行い、Do(実行)で目標達成のための仕事を遂行し、Check(評価)で目標がきちんと達成されたかを評価し、Action(改善)で、今後の改善点を指摘し推敲を促します。部下一人ひとりの力量に応じ、この評価のPDCAを回せる人物こそが、理想のリーダーです。
評価制度の運用でリーダーのマネジメントスキルが身につく
人事評価制度のコンサルティングに10数年携わるなかで、気づいたことがあります。それは、私が推進・サポートしている「ビジョン実現型人事評価制度®」を導入・運用している企業では、「必ず、リーダーが先に成長する」ということです。人事評価制度導入企業の評価集計やまとめを弊社が行ったり、得られたデータをもとに人材の成長度合いを継続的に効果測定したりする中で得られた結論です。
以前は、人事評価制度を「評価者(リーダー)が部下の育成を支援する仕組み」として位置づけていました。評価による部下の強みや弱みを評価者が把握し、それに応じた成長目標を明確化、達成支援をすることによって、部下が成長するプロセスとしていたのです。
ところが、「人事評価制度を導入すると、必ずリーダーが先に成長する」という現象が、どのクライアントからも確認できたのです。そこでデータやヒアリングをもとに分析してみると、人事評価制度の運用で主に次の2つの効果が得られていることが分かりました。
- リーダーが社長と考え方を共有する
- 部門マネジメントに必要なスキルが身につく
一般的な人事評価制度の考え方は、給与や賞与を決める査定のための評価を行い、その結果を本人に納得させることに主眼を置いています。一方、私が中小企業向けに研究・開発し、運用をサポートしている「ビジョン実現型人事評価制度®」は、経営計画書を作成したうえで、人事評価制度に落とし込み、運用を徹底して実践と結果に結びつけます。
つまり、人材育成を通じて会社のビジョンや目標・理念を実現することを目的としているため、リーダーが社長と考え方を共有できます。また、理念や戦略を落とし込んだ評価基準作りにリーダー自身が参加し、経営計画書の運用に携わることによって、部門マネジメントに必要なスキルが身につくのです。
3つのマネジメントスキルの磨き方
「ビジョン実現型人事評価制度®」を包括的に導入したほうが、よりリーダーの能力向上につながりますし、何より会社の成長へダイレクトに貢献できます。ただ、時間的、コスト的余裕がないという方や、リーダーの能力向上について手っ取り早く知りたいという方もいるでしょう。ここではとくに3つのマネジメントスキルを主眼に置いて、その磨き方を解説します。
観察力を磨く 「評価の実施」
評価の実施は、「評価期間の部下の仕事ぶりを観察・把握する」「観察・把握に基づいて評価シートで評価を行う」の2つのステップになります。評価シートには、本人の行動をABCなど段階的に評価しますが、その際必ず判断理由を記入します。判断理由を書くためには、きちんと部下の仕事ぶりを見ておかなければなりません。
判断理由の根拠となるのは事実のみです。対象となる評価期間は3ヶ月や半年間分となりますから、適正な事実に基づいた評価を行うためには、その具体的な仕事ぶりを記録しておかなければなりません。
もし、あいまいな判断理由で評価していようものなら、次に示す「育成面談」の場で部下から文句を言われたり、上司としての信頼を失ってしまったりする可能性もあるでしょう。ですから、観察は真剣に行わなければなりません。このプロセスを通して、リーダーの観察眼は養われます。
育成会議で 「判断力」を身につける
評価後に実施する育成会議の目的は2つあります。「評価結果のすり合わせ」と、「被評価者の育成の方向性の検討」です。会議にはリーダーらが参加して、なぜその評価をつけたのか、根拠となる部下の仕事ぶりや行動、成果や失敗はどんなものかを話します。
評価のたびに育成会議を繰り返し徹底して行うと、そのうちリーダーには、部下の仕事ぶりを適正に評価する「判断力」が身についてきます。この「判断力」が、評価の場面だけではなく、部下を指導するあらゆる場面で、部下を成長に導く指導力につながるのです。
チャレンジシートで目標の実践状況をチェツク
育成会議を終えれば、育成面談があります。リーダーである上司と、被評価者である部下とが面談し、評価と次の目標を共有するステップです。そして、共有された目標は、実践管理される必要があります。
私は、「チャレンジシート」を使って、次の評価までの期間の間、リーダーと部下とが一緒になって目標の実現に向けて取り組んでいくのが理想と考えています。目標を立てたら立てっぱなしとせず、リーダーがきちんと管理を行い、達成へと導く仕組みを作るのです。
リーダーが中心となり、目標管理を進めることで、チャレンジシートの活用を通じて目標推進管理のスキルが身につきます。「チャレンジシート」の詳しい作り方は、以下の記事も参考にしてください。
たった3項目で社員の成長を爆速化!「チャレンジシート(目標設定シート/目標管理シート)」の作り方【目標例付き】
リーダーのスキルアップについては、以下の拙著でも紹介しています。ぜひリーダー育成の参考にしてください。
改訂新版 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方
おわりに
リーダーが先に指導者として成長すれば、優秀な指導者の下で、部下もどんどん成長していきます。人材育成が促進されれば、会社の成長へと結びついていきます。
人材の成長は会社のためでもありますが、個人のスキルアップと自己実現の幸せにも直結します。全社員が自身の成長を感じられるよう、まずはリーダーを育成しましょう。